都会派SUVなら合理的なFFでも不満はない
続いて、プジョー 3008。ミニバン風だった初代から2017年にフルモデルチェンジされた現行型は一転、スタイリッシュなSUVへと変貌している。さらに2021年にはフェイスリフトを受け、そのPHEVグレードも日本に導入された。
今回の試乗車は、2L 直4ディーゼルターボを搭載した「GT ブルーHDi」。駆動方式はFFだが、そもそもフレンチSUVはほとんどがFFだ。これは、ロードクリアランスがそこそこあって、出来の良いトラクションコントロールを備えて、冬場はスタッドレスタイヤを履いていれば、よほどの悪路でない限り走破性に問題ない。だから、ほとんど使わないプロペラシャフトやトランスファーを積んで走っているのはムダだ、というフランス的な合理主義の賜物なのだろう。
実際、日本でも都市生活者なら冬場にスタッドレスタイヤを履いていれば、ウインターリゾートに出かけるくらいならFFでも問題ないから、SUVでもコンパクト系にFF車が多い。それでも4WDのほうが安心だから必需品だと考えるなら、選択肢を変えるしかない。
さて、ディーゼルエンジン独特のガラガラ音も室内に乗り込めばほとんど気にならず、走行時のサウンドもさほど大きくない。一緒に走ったコンパスのガソリンエンジンがけっこう元気な音を立てていたから、乗り比べると大差ないレベルに思えた。ディーゼルらしく低速域からトルクはタップリあり、ターボのおかげでけっこう高回転まで淀みなく加速する。
トランスミッションは8速ATで、80km/h走行中のエンジン回転数は8速で1200rpmだが、そのまま走っていると7速に落ちて1500rpmとなる。最近のプジョー車に共通の、小径ハンドルの上からデジタルメーターを見るiコックピットは最初は違和感があるけれど、すぐに慣れるだろう。市街地走行では頻繁にアイドリングストップ機能が作動し、これはコンパスでも同様だった。
GTと名が付いているだけあって足まわりは少し硬めだが、スポーティな走りを好む人にはちょうど良いと感じられるくらいで、不快なレベルではない。ちょっとだけハンドリングを試してみたが、しっかりした足で思ったとおりのラインをトレースする。
フェイスリフトされたスタイリングは新世代プジョーらしい今風のもので、好き嫌いは分かれそうだが「映える」デザインであることは間違いない。見慣れてくると、むしろ親しみさえ感じられる。季節を問わず、街中はもちろん長距離ドライブも楽しむような人には最適な1台かもしれない。
今回の2台、スタイリングはまったく異なるけれどサイズ、パワースペック、そして車両価格などは近いものがある。それでも、この2台を比較してどちらを買おうかと考える人は少ないだろう。だが、この2台には隠れた共通点がある。クルマ好きの読者なら気づかれたと思うが、どちらもステランティス グループのクルマだということ。ひょっとしたら次期コンパスと3008は、同じプラットフォームやパワートレーンを採用して、スタイルだけは違うクルマとして登場するかもしれない。
そんなことを考えながら2台のSUVに乗っていると、ウインドスクリーンの向こうにはクルマ社会の新しい構図が見えてきそうだ。(文:Webモーターマガジン編集部 篠原政明/写真:井上雅行)