2009年、6代目ゴルフにスポーツモデル「ゴルフGTI」が登場した。効率が良くハイパフォーマンスなモデルとして、歴代ゴルフGTIは高い評価を受けてきたが、6代目ゴルフGTIはどこがどう進化していたのか。ここでは南フランス・サントロペで開催された国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2009年8月号より)

GTIのドライビングを大きくアップデートさせる「XDS」の効能

画像: GTIのトピックスはXDSとDCCが搭載されていること。DCCは「ノーマル」、「スポーツ」、「コンフォート」モードが用意され、路面とドライビング状況によりダンパー特性を変化させるもの。

GTIのトピックスはXDSとDCCが搭載されていること。DCCは「ノーマル」、「スポーツ」、「コンフォート」モードが用意され、路面とドライビング状況によりダンパー特性を変化させるもの。

XDSは、次のような働きを行う。高速コーナーを抜ける時に、フロント・イン側ホイールに負荷が不足しているとGTIのコンピューターが判断すると、ESPの油圧系統がそのホイールに制御を行い、トラクションを確保する。XDSの効能は大きく、中高速コーナーでペースを上げて走ると、ニュートラルで精密なハンドリングを備えているところが体感できた。

たとえば径の大きなコーナーで、前方に追い抜くべきクルマが走っていたとする。こちらはハンドルを少し左に切り、追い越し車線に出る。と同時にスロットルペダルを踏み込み始めながら、追い越し態勢に入る。眼の前にはコーナーが迫っているから、追い越しながらハンドルを切る。つまり、加速しながら舵を切り続けなければならない。パワフルな前輪駆動車の場合、こうした状況ではアンダーステアが発生しやすく、結果的にスロットルを緩めざるを得なくなり、ペースが一定しなくなってしまう。

それが、XDSを装備したゴルフGTIでは違ってくる。コーナーの外側へ膨らんでいこうとする動きが弱く、パワフルな前輪駆動車ではややもすると外側の前輪だけにエンジンの駆動力が伝えられているようだったのが、左右の前輪が揃ってクルマを引っ張っているように感じられるのだ。XDSは、ゴルフGTIのドライビングを大きくアップデートさせている。

同様に、DCC(アダプティブ・シャシ・コントロール)システムも、先代GTIからのアドバンテージのひとつだ。ドライビングの状況に応じて、ダンパー特性を変化させ、挙動変化を小さくするものだ。同様の原理のものはこれまでにもたくさんあったが、ダンピング特性の変え方が絶妙だ。ナチュラルで、キメが細かい。

新型TSIエンジンやDSGトランスミッションなどもいい仕事をしているが、XDSとDCCの働きが新型GTIを大いに輝かせている。大排気量エンジンや特別なシャシ/サスペンションなどではなく、XDSやDCCといった電子制御技術でパワーと挙動をコントロールすることでスポーティドライビングを成立させている。制御や適正配分といった、やはり知的な性能向上が新型GTIのスポーティドライビングの真髄にある。

初代GTIと最新GTIの共通項は、バランスの良いスポーツシートだった

画像: 標準装備のスポーツシートはタータン柄のファブリック。オプションでレザーも用意。

標準装備のスポーツシートはタータン柄のファブリック。オプションでレザーも用意。

サントロペ郊外のワインディングロードでの素晴らしい走りっぷりに感銘を受け、試乗会のベースとなるホテルに戻った。ホテルには、初代ゴルフGTIが展示されていて、ナンバーも付いている。タッフに訊ねたら、短距離ならば運転して構わないという。返事もそこそこに、初代GTIに飛び乗って、いま帰って来た道を引き返す。

15万km以上走った個体ではあったが、コンディションは良好。パワーアシストされていないステアリングは重いが、すぐに慣れた。シャープでダイレクトな反応が、キャラクターと時代を表わしていた。

エンジンは、どうだったか。6代目のトルクフルでドライバビリティ豊かなTSIエンジンを味わってきた直後ということもあって、特別にパワフル、トルクフルという印象は受けなかった。音が勇ましいのが意外だ。こんなに迫力があったのか。

共通しているのがシートの掛け心地だ。黒地の本体に、赤ベースのチェック柄が座面に用いられたデザインも一緒。腿の両サイドと背中のサイドサポートが強く、しっかりと身体を支えてくれる。いわゆるバケット風というシートだが、バケット風で難しいのは張り出したクッションと乗り降りのしやすさのバランスだ。クッションが小さければ意味がないし、大き過ぎたらレーシングカーのように乗り降りに難儀してしまう。バランスが難しいところだが、うまい妥協点を見出している。

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