GTIに感じた鮮烈さはスポーティな高性能にあった
まだ運転免許証を取得できるはるか以前のことだったけれども、フォルクスワーゲン ゴルフGTIが初めて登場した時の鮮烈な記憶は残っている。
1970年代中盤、初代ゴルフとパサート、シロッコたちがデビューし、新しいフォルクスワーゲンのラインナップが揃ったばかりのことだった。地味で、禁欲的なクルマをずっと作り続ける自動車メーカーという印象しかなかったフォルクスワーゲンが、新しい時代に入ってその禁欲を破ったかのような鮮やかさが、ゴルフGTIからは感じられたのだ。
後に初めてゴルフGTIを走らせた結果は、そこから大きく外れることがなかった。ゴルフGTIに感じた鮮烈さとは、そのスポーティな高性能にあった。そして、それを実現した方法が、一見すると地味でありながらも、今でも日本のフォルクスワーゲンファンがフォルクスワーゲンに期待している理詰めなものだったことだ。
エンジンパフォーマンスを向上させる方法も、大向こう受けを狙った大排気量化や、当時もてはやされていたターボ化、ツインカム化ではなく、インジェクション化だった。まだ、一般的にはキャブレター全盛の時代だったからこそ、インジェクションという、「吸気を高効率化する」というまことに地味なデバイスを十分に活用して、ハイパフォーマンスを達成していた。
「そういう方法もあるのか!」地味だが、効果を上げるためには、地道な開発とノウハウが要求される。すでにあるものの効率を上げることは決して目立ちはしないが、技術的な裏付けが大きくないと実を結ばない。「知的な速さ」とでも呼ぶべきオーラを初代GTIは醸し出していた。
初代GTI以降の各世代のGTIには、ひと通り乗って来た。国内でもヨーロッパでも乗った。当然、パフォーマンスは向上しているのだが、初代の持っていた鮮烈さは少しずつ弱まっていた。ベースとなるゴルフのパフォーマンス向上が急角度で進み、GTIのライバルも増えていったからだろう。
新型で最大のハイライトはXDSを採用したことだろう
南フランス・サントロペで開催された6代目GTIの国際試乗会に参加した。地中海沿いの港町は、すぐ後ろに岩山群が迫っており、大小の起伏に富んだコーナーが控えている。新型GTIにはおあつらえ向きの場所である。
新しいGTIは、本体となるゴルフのモデルチェンジに準じている。基本的にシャシは5代目からのキャリーオーバー。エンジンは燃費と低排出ガスに優れたものにアップデートされ、トランスミッションは6速MTか6速DSGが組み合わされる。
新型エンジンの最高出力は210ps。以前に発売された「GTIエディション30」と第2世代のGTIピレリに搭載された230psのものよりも20ps低いが、5代目GTIよりは10ps高い。しかし、燃費では優れており、100km当たりの消費燃料が5代目より0.7L、230ps版よりも0.9L少ない。
新型GTIのエンジンは5代目の延長線上にある。すなわち、カタログデータの1700rpmから5200rpmまで続く最大トルク280Nmによって、優れたドライバビリティを発揮している。どこから踏み込んでも、力強い加速態勢に入っていく。
6代目GTIの最大のハイライトは、XDS(エレクトロニック・トランスバース・ディファレンシャルロック・システム)の採用だろう。XDSとは、ESPシステムと一体化されたエレクトロニック・ディファレンシャルロック・システム(EDS)の機能を拡張したもので、トラクションとハンドリング性能を向上させるためにある。GTIが、フォルクスワーゲンとしては初の採用となる。