環境に優しい「パラフィン・ディーゼル燃料」なら、最大95%のCO2を削減
そんなフォルクスワーゲンがここに来て、「電動化と並行して」内燃機関(ICE)の排出ガス削減に関する取り組みを、改めて表明してきた。もちろんこれは、「NEW AUTO」戦略で触れられている「ICE事業の最適化」に関わる動きの一環ということなのだろう。
今回のリリースによれば、2021年6月末以降に納入された最新世代の直列4気筒ディーゼルエンジン(TDI)を搭載したフォルクスワーゲンモデルは、欧州規格である「EN 15940」に準拠した「パラフィン・ディーゼル燃料」による稼働が可能だという。
「パラフィン燃料」・・・一般的にはあまり耳慣れない言葉かもしれない。わかりやすい例を挙げれば、バイオ由来の素材を用いたHVO(Hydrotreated Vegetable oil:水素化処理植物油)などがそれに当たる。主に植物系の生物学的残留物や廃棄物から製造されるもので、「カーボンニュートラル」であると考えられている燃料だ。
すでに欧州で実用化が進んでおり、燃料として100%使用することも可能だという。また、いわゆる食物由来の素材ではなく、使用済み食用油、おがくずなどの生物残留や廃棄物の使用によってのみ、最大の環境効果が得られるようだ。
そうしたHVOなどのバイオ燃料は、今後10年以内に欧州の道路輸送のエネルギー市場でシェアが20〜30%に増加する可能性が高い、と指摘されている。なにしろ従来のコンサバな軽油に比べると、70~95%ものCO2削減を可能とするというから驚きだ。
フォルクスワーゲンの次世代ガソリン・ディーゼル燃料開発を統括してきたトーマス・ガルベ博士は、「この環境に優しい燃料を使うことで、欧州全土のユーザーがCO2を大幅に削減することが可能です」と語っている。とくに、たとえば社用車を一気に電動化することが難しい企業体などにとっては、フリートでのカーボンフットプリントの削減効果が高まる、という。
世界中のガソリンスタンドで「グリーンプレミアム(仮)」の提供を期待
いずれにせよ最近、世界だけでなく日本においてもICEの存在を見直す動きが加速しているように思える。マツダが次世代バイオディーゼル燃料を使ってレースに参戦するといった、具体的な取り組みも始まっている。
バイオ由来の再生可能燃料だけでなく、CO2と水素を合成して製造される「e-フューエル」など、さまざまなアプローチでの再生可能燃料の実現性が、お先真っ暗かと思われたICEの未来にほのかな灯りを灯しつつあるようだ。
グローバルでオールラインナップ戦略を取る規模の自動車メーカーにとって、パワートレーンのマルチソリューション維持は欠かせない。今回の発表はまさに、電動化に没頭していた感のあるフォルクスワーゲングループもその例外ではなかった、ということだろう。
欧州勢の中で電動化の急先鋒を走っていたフォルクスワーゲンにとっても、ICEが「実は環境に優しいクルマ」として延命できるのなら、これほど心強い味方はいないハズだ。ここで鍵を握るのはやはり、再生可能燃料の普及に他ならない。
2018年、ガルベ博士は当時テストを行っていた33%バイオディーゼル混合軽油のことを「グリーンプレミアム」と呼び、ガソリンスタンドで普通に買えることを願っていた。その含有率がたとえば100%になったなら、普通の軽油よりはおそらくかなり高価なものになるだろう。
それでも「選ぶ楽しさ」をあきらめない未来のために、いつの日か再生可能燃料100%の「グリーンプレミアム(仮)」を、日本でも満タン給油してみたいものだ。(文:Webモーターマガジン編集部 神原 久)