新時代のクルマを感じたアウディ e-トロン
たとえば、電動化を強力に推し進めるフォルクスワーゲングループの中にあっても、とくにBEVに対して熱心なアウディ。そのアウディが早々にローンチした【e-トロン】をドライブすると、それがもっともベーシックなSUV仕様のモデルであっても、その走りの印象がこのブランドが常々追い求める先進的なイメージにピタリと符合したものであることに感心をさせられる。
完全にシームレスで静粛性に富んだその加速のフィーリングは、「まさにこれこそがアウディが求める動力性能であったに違いない」と納得できるものだった。既存のアウターミラーを取り払ってドアトリム部にビルトインしたディスプレイ上にバーチャル表示としたバーチャルエクステリアミラーや、これまで経験をしたことがないほどの高速走行時の静粛性も、新時代のクルマが登場したことをひしひしと連想させられる。
ただし、後に71kWhとやや控えめな容量のバッテリーを搭載したモデルも追加されたものの、当方がテストドライブを行った際に用意されていたe-トロンは95kWh容量の駆動用バッテリーを搭載した「クワトロ」。WLTCモードで423kmという航続距離は一見長いようにも思えるが、それは完全に使い切ることができるわけではないバッファも含んだ数字である。そのことを考えると、やはりちょっとばかり物足りない数字であると思えたこともまた事実。
そもそも、前後輪用で2基のモーターが発する最高出力が300kw(約408ps)相当と聞くと、「この日本でそれほどの出力が必要な場面があるのか?」という正直な気持ちが芽生えもしてしまう。「ならば、300psもあれば十分だから航続距離を伸ばしてくれたら良いのに・・・」というのが、日本で暮らすドライバーの大方の意見だったりするのではないだろうか。
一方、同じフォルクスワーゲングループに籍を置くブランドでも、ポルシェからローンチされたBEVの「タイカン」に乗ってみると、そこでは直接BEVとは関係のないはずのシャシ性能の高さにこそ驚嘆させられたことも記憶に新しい。
むろん、動力性能も素晴らしいし、BEVらしい静粛性の高さも大いなる特徴点。しかし、このモデルを初めてドライブした際の驚きは「かの911すら凌ぐのではないか?」と思えるほどのコーナリング時の低重心感覚や、高速道路をクルージングした際の、それまで経験をしたどんなモデルよりも高いと感じられた際立つ走りのフラットさに集約されたのだ。
端的に言って、それはまさしく「4ドアのスポーツカーそのもの」と感じられたもの。このポルシェというブランドが長年にわたって追い求めてきたひとつの夢が、BEVを手掛けたことによって実現されたのだ、と、そう理解ができたのである。(文:河村康彦/写真:井上雅行)