目指したのは「リーズナブルで、かっこ良く、走りが楽しい」価値
先代10代目がグローバルでヒットしたことから、新型11代目はキープコンセプトで登場したが、それでも多くの点で進化が見られるので確認していこう。
先代10代目が目指したのは、「リーズナブルで、かっこ良く、走りが楽しい」という「シビックらしい価値」。9代目のコンセプトを見直し、市場・地域別に異なっていた車両開発を再び統一したのも注目点で、プラットフォームを新開発して、デザインも機能一点張りでなく情感に訴えるものになっていた。
販売が途絶えていた日本市場でも、この10代目で、5ドアハッチバック、4ドアセダン、5ドアハッチバックのタイプRの3モデル体制で復活を果たしている。
この10代目の路線変更はグローバルの市場で大成功。親しみやすく、かっこ良く、走って楽しい仕上がりは、往年のシビックの魅力を取り戻したようだった。
しかし、世界的に成功した10代目も、日本では大ヒットとはならず、世代途中で4ドアセダンの販売が終了となるなど、日本のユーザーにはもうひとつ、その魅力が届かなかった。
そこで新型11代目の日本仕様は、ボディを5ドアハッチバックのみとした上で「EX 」と「LX」の2グレードを設定(先代10代目は5ドアハッチバックと4ドアセダンにそれぞれモノグレードの設定)し、新たに「爽快」をグランドコンセプトとしてストレートに新型の魅力を発信している。
ここでは新型11代目シビック(5ドアハッチバック)EX 6速MT仕様と先代10代目シビック5ドアハッチバック 6速MT仕様を比べてみる。
【ボディ】
新型11代目のプラットフォームの基本となったのは、先代10代目で新開発されたもの。先代の走りは世界で高い評価を受けたが、新型ではそれをさらに高めるべくプラットフォームからブラッシュアップ。具体的には、高張力鋼板や構造用接着剤の使用拡大、アルミボンネットや樹脂製テールゲートの採用などにより、ボディの捻り剛性を19%向上、また大幅な軽量化を実現している。
ボディサイズは新型と先代ほぼ同じだが、新型は全長で30mm、ホイールベースで35mm大きく、全高で5mm低く、適正化されている。ホイールベースを変更するほどの大掛かりな改良は、新世代プラットフォームが一部モジュラー化されていることから可能となった。
一方で車両重量がやや増えてしまっているのは、軽量化の分がボディの拡大や安全装備や快適装備の充実で相殺されているためだ。
【エクステリア】
5ドアハッチバックのスタイリングは新旧ともに「5ドアクーぺ」と表現したほうが相応しいような流麗でスポーティなもの。新旧を比べてみると、先代10代目が抑揚のある曲面でダイナミックさを強調したものであるのに対し、新型11代目はロー&ワイドな基本デザインを際立たせたシャープなものという印象だ。
Aピラーの延長線がフロントタイヤの中心に交差する角度となっているのが新型のデザイン上のポイントで、これがスポーティでかつ落ち着いた雰囲気を作っているという。
ドアミラーの取り付け位置が新型で後方に移されていること、フェンダーの膨らみが異なることにも注目だ。
【インテリア】
エクステリアに新旧で共通性が見られるのに対して、インテリアの印象は大きく異なるものになっている。
新型11代目のインテリアは、助手席側まで伸びる横長のハニカムパネル(ここにエアコン吹き出し口が隠されている)や中央部がモニターとなるアナログ表示のメーターパネル、機能性を重視しでデザインされたスイッチ類などにより、クリーンですっきりとした印象。
一方の先代10代目 のインテリアは、横方向の広がりを抑えて、コクピット感、タイト感を強調したデザインとなっているのが特徴。大径のエンジンン回転計を中心に据えたメーターパネルもスポーティで、カーボン調パネルからも先代の走りの方向性がうかがえる。
新型が「爽快」を開発テーマに心地よさを強く意識しているのに対して、先代はスポーツ志向が強かったように見える。
【パワートレーン】
新型11代目のパワートレーンもまた、基本的に先代10代目から継承されたもの。ただ、定評のあるL15C型1.5L直噴ターボエンジンは毎年のようにアップデートされていて、とくに新型シビックへの搭載では新しい高効率ターボチャージャーの採用などが行われている。
新旧でスペック上の数字に大きな違いはないが、新型では3000-4000rpmで小気味よい加速が味わえる上に、さらに回すと高回転まで一気に駆け上がる痛快なフィーリングが味わえるようになった。
組み合わされるトランスミッションも、形式上は新旧同じだが、6速MTは操作性にかかわるレバーシャフトピボット精度、セレクトスプリング、セレクトリンケージピン、ブラケット剛性など細部まで見直され、心地よいシフトフィールが味わえるように改良されている。またCVTでも制御部分のリセッティングが行われている。
【サスペンション】
サスペンションは新旧ともに、前:マクファーソンストラット、後:マルチリンクとなるが、新型はアウトバーンでの高速走行でも優れた安定性を確保するよう新たに設計し直されたもの。サスペンションのセッティングは欧州仕様をまず開発し、その上で各市場の使用環境にあわせて微調整されたという。新型の日本仕様は、敏感すぎない爽快な走りに仕上げられている。
【安全性能】
先進的な安全装備に関しては、先代から4年の進化をとてつもなく大きく、比べようがない内容となっている。
最新の安全運転支援システム「ホンダセンシング」は、フロントワイドビューカメラと高速画像処理チップを採用。具体的な機能として、「トラフィックジャムアシスト(渋滞運転支援機能)」、「誤発進抑制機能」、「後方誤発進抑制機能」、「近距離衝突軽減ブレーキ」、「ブラインドスポットインフォメーション」、「パーキングセンサーシステム」、「後退出庫サポート」、対向車に眩しさを与えることなく遠方視認性を確保する「アダプティブドライビングビーム」も採用されている。ADASの充実は、現在、一番先進的な運転支援機能を持つレジェンドで搭載された技術を転用していることも大きい。
【ラインナップ/価格】
11代目新型シビックは5ドアハッチバックの1.5L直噴ガソリンターボのみでの登場となったが、そこに装備の異なる2つのグレード「EX 」「LX」が設定される。この2つのグレードはエンジンやトランスミッション、タイヤなど走行性能にかかわる部分は共通で、シートやトリムなど快適装備に違いがあるだけだ。
ここで少し気になるのが319万円〜353万9800円という価格設定。日本仕様は1.5L直噴ターボを搭載したハイスペックなメカニズム、高品質かつラグジュアリーな装備を誇っており、その内容からすればまったく割高というわけではないが、価格としては求めやすい設定とは言い難い。どうやら、現状ではまだ多くの販売台数を見込めないため、エントリーレベルの仕様が設定できないという事情があるようだ。
また、今後登場するハイブリッドモデル「e:HEV」、スポーツモデル「タイプR」を見据えての価格設定であるのは間違いなく、量販車種となるはずの「e:HEV」の価格が気になるところだ。
ちなみに、先代10代目は、4ドアセダン、5ドアハッチバック、タイプRの3モデルを同時に投入。それぞれモノグレードで、デビュー当初の車両価格は5ドアハッチバックで280万0440円だった。
新型11代目ホンダ シビック ラインナップ(2021年発表)
LX:319万円(CVT/6速MTとも同価格)※5ドアハッチバック
EX:353万9800円(CVT/6速MTとも同価格)※5ドアハッチバック
従来型10代目ホンダ シビック ラインナップ(2017年発表当時)
4ドアセダン:265万0320円(CVT)
5ドアハッチバック:280万0440円(CVT/6速MTとも同価格)
タイプR:450万0360円(6速MT)※5ドアハッチバック
先代10代目シビックの日本市場での人気は爆発的とまではいかなかったが、「リーズナブルで、かっこ良く、走りが楽しいというシビックらしい価値」が市場に理解されるきっかけを作った。新型11代目ではそれをしっかりと伝える使命を負っている。
新型11代目 ホンダ シビック EX 主要諸元
●全長×全幅×全高:4550×1800×1415mm
●ホイールベース:2735mm
●車両重量:1340[1370]kg
●エンジン:直4 DOHCターボ
●総排気量:1496cc
●最高出力:134kW(182ps)/6000rpm
●最大トルク:240Nm/1700−4500rpm
●トランスミッション:6速MT[7速CVT]
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・47L
●WLTCモード燃費:16.3km/L[16.3km/L]
●タイヤサイズ:235/40R18
●車両価格(税込):353万9800円[353万9800円](2021年発表)
従来型10代目 ホンダ シビック ハッチバック 主要諸元
●全長×全幅×全高:4520×1800×1435mm
●ホイールベース:2700mm
●車両重量:1320[1350]kg
●エンジン:直4 DOHCターボ
●総排気量:1496cc
●最高出力:134kW(182ps)/6000rpm[134kW(182ps)/5500rpm]
●最大トルク:240Nm/1900−5000rpm[220Nm/1700−5500rpm]
●トランスミッション:6速MT[7速CVT]
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・46L
●JC08モード燃費:17.4km/L[18.0km/L]
●タイヤサイズ:215/40R18
●車両価格(税込):280万0440円[280万0440円](2017年当時)