ヒョンデ「ネッソ」はZEV。ファーストカーにちょうどいい
ヒョンデは、電気自動車の「アイオニック5(IONIQ5)」と燃料電池車の「ネッソ(NEXO)」、2車種のZEVで日本市場への参入を発表した。この2台、「走行中に排出ガスを一切出さない」というのが共通点だが、それ以外はおもしろいほどに対照的。
デザインから走行性能まで「先進性」をアピールしたアイオニック5に対して、今回紹介するネッソは、奇をてらったところがないのだ。もちろん随所にこだわりはあるのだが、カタチから走行フィールまで、エンジン車からまったく違和感なく乗り換えられるという意味で、だ。
エクステリアデザインは、「リバーストーン」をイメージしたという。川の水流によって石の角がなくなり、つるんとした「丸み」を帯びたカタマリ感。水平基調のフロントマスクに、水の流れをイメージしたというカスケーディンググリル。
やさしいフォルムでありながら、水の力で削られた力強さも感じる。自然に存在するものから温かみを感じることも多く、ネッソにもそんな心地よさがある。ボディカラーがアースカラーなのも、このプロポーションにしっくり馴染む。
一方、シンプルな造形の中にもさまざまな空力デザインが見られる。フロントバンパー両端からホイールハウスに風が抜けるエアカーテン、Dピラーエアトンネル、エアロデザインホイール、走行時はボディとツライチになるオートフラッシュドアハンドル、ボンネット下に収まるフロントワイパー。そして、ボディ下部はフルフロアアンダーカバーを採用し、Cd値0.32を実現している。
インテリアも水平基調でシンプルな面構成。大豆、竹、さとうきびなどを原料とする環境負荷の少ないマテリアルを採用することにより、製造工程で12kgのCO2を削減しているという。こうした素材を採用していることは、もちろん言われなければ分からず、見た目も手触りも質感は高い。
高い位置に配されたブリッジタイプのセンターコンソールと大型ディスプレイは未来感あるデザインだ。最近、センターディスプレイを大型化してすべての操作系をこのパネル内に集約、デザイン的シンプルさを強調するモデルも多いが、使い勝手の面で言えば必ずしも「メリット」だとは言い切れない。しかし、ネッソは物理スイッチと使い分けされている点も運転中に操作しやすくて使いやすい。リアシートの広さも十分で、リクライニング機能も装備されるのが嬉しい。
本国では4年前に発売されているクルマなので、正直、アイオニック5ほどの新しさは感じないが、運転していてのネガティブ要素もなく、快適なSUVに仕上がっている。ADAS(先進運転支援システム)も標準装備され、高速道路で試したが安全・快適にドライブできる。ちなみに、車外から自動パーキングできる機能も備える。一方、ワインディングでは低重心が効いていて重さも感じず素直なハンドリング。アクセルペダル操作に対するパワーの出方も自然で、トータルバランスとして運転しやすい。
3本の水素タンク(156.6L)を搭載し、満充填にかかる時間はおよそ5分で、WLTCモードで820km走行できる。航続距離は長い一方で、水素ステーションは圧倒的に少ないというインフラのハードルは高い。補助金を受けたとしても総支払い額もけっして安くはない。そういう意味では、まだ、誰にでも勧められるクルマではないが、あえてこのモデルを日本に投入したのは、将来、水素社会を謳う日本市場への期待と、ヒョンデの技術的プロパガンダという意味合いもあるのではないか、と感じられた。(文:佐藤久実/写真:井上雅行)
ヒョンデ ネッソ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4670×1860×1640mm
●ホイールベース:2790mm
●車両重量:1870kg
●モーター:永久磁石型同期モーター
●最高出力:120kW(163ps)
●最大トルク:395Nm
●水素タンク容量:156.6L
●バッテリー総電力量:1.56kWh
●WLTCモード航続距離:820km
●駆動方式:FWD
●タイヤサイズ:245/45R19
●車両価格(税込):776万8300円