この特集では、「iとMとX」の3つのキーワードを軸としてBMWパワーの新たな展開を見てきたが、その最終回では「iとMとX」がもたらす「新しいBMWの高級車づくりの流儀」について触れてみよう。BMWの最高級サルーンとして君臨してきた「7シリーズ」。一方、新たなラグジュアリーカーとして注目が集まる「X7」。この2台はカタチも生い立ちも異なるが、BMWの流儀はたしかに受け継がれている。(Motor Magazine 2022年4月号より)

既存のショーファーに劣らないX7の広さと質感

まず乗り込んだのはX7の側だ。前席まわりは当然ながら、オプションとなるセンターの2座コンフォートシートの着座姿勢やホールド性、天地及びニースペース等の余裕はまさにトップレンジに相応しいもの。

この寛ぎ感があれば、7シリーズではなくこちらをショーファードリブンとして選ぶというユーザーも、とくに最大市場である米国では確実にいるはずだ。そして3列目シートも決してオマケ的なものではなく、ミニバンに近い着座環境が確保できている。同じカテゴリーのライバルと比較しても、パッケージは相当優秀だと思う。

数字で判断すると日本の路上ではさすがに持て余しそうな車格ながら、いざ走り始めてみるとサイズ感をそれほど意識させないのは、BMWらしい意のままな応答によってもたらされた副次的な効能だろう。X7は走り出しから刺々しいところがなく、速度コントロール性もナチュラルだ。

画像: X7 xDrive40d Mスポーツ。堂々とした体躯を持つ。4WDに加えて車高調整機構を備える。リアハッチは上下2分割開閉式となっている。

X7 xDrive40d Mスポーツ。堂々とした体躯を持つ。4WDに加えて車高調整機構を備える。リアハッチは上下2分割開閉式となっている。

ベルトを介してアシストする48Vのスタータージェネレーターの力感はとくに1500rpm以下の極低回転域で明らかだが、そこから上へのトルク変位も、搭載エンジンの滑らかな回転フィールが奏功してまったく違和感がない。言われなければモーターアシストが働いているかさえ感じさせないほどのスムーズネスは、まさに直6の素性の良さを表している。

X7の乗り味はX5以下とは明確に一線を画していて、全域でゆったりと鷹揚だ。試乗車は21インチと大径のランフラットタイヤを履くが、そこから想像する硬さや粗さのようなものはほとんど感じられない。標準装備となるエアサスペンションの助けもあって、ふわっと包み込まれたかのような柔らかいタッチが印象的だ。

そのぶん・・・と言ってはなんだが、ハンドリングのレスポンスやアジリティといった点は、さすがにX5のような鋭さはない。このクラスのアベレージからすれば十分にスポーティに振る舞えるが、BMWというブランドに対する期待値には届いていないと感じる人がいてもおかしくはないと思う。

上級車だけにハイテク装備が満載だが走り極めては自然

この点は、程度の差こそあれM760Liも似たところがある。操舵ゲインの立ち上がりはBMWとしてみれば気持ち穏やかで、そこから切り込んでいく際の動きにもタメと放ちがある。ただし、それはいい意味で、じわじわと曲がりを強めていく間合いがとても掴みやすく、かつ舵に伝わるフィードバックも繊細で心地よい。

4WSなどの電子制御は完璧に黒子に徹し、最低限のアシストで車体の向きを心地よく変えていく。ハイテクがやたらとでしゃばることなく、たとえ4WDであっても最後は駆動輪でしっかりと旋回していく感覚を残しているあたりはいかにもBMW的だ。そして高重心の巨体であるX7でも、驚くことにこれと同質の感覚だった。

画像: M760Li xDrive。ホイールベースは3210mmで標準車より140mmも延長されている。これにより生まれた余裕は後席の足元スペース充てられている。

M760Li xDrive。ホイールベースは3210mmで標準車より140mmも延長されている。これにより生まれた余裕は後席の足元スペース充てられている。

BMWの走りのイメージについては、スポーティという言葉で簡単に括られても、各人それぞれの思いがあると思う。個人的にはE39の5シリーズあたりのフィーリングがもっともしっくりくるわけだが、X7やM760iの動きには、あの頃のBMWらしいリニアリティが重なる。

決してバキバキに曲がるばかりのクルマではないということを体現しているのが、大きさや重さというハンデが幸いした部分もあるにせよ、フラッグシップというところにはある種の整合性が感じられる。メルセデスの中でもSクラスは別物と思わせる何かがある。それと同じように、BMWもここに託すのは特別なものなのだろうと想像する。

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