この特集では、「iとMとX」の3つのキーワードを軸としてBMWパワーの新たな展開を見てきたが、その最終回では「iとMとX」がもたらす「新しいBMWの高級車づくりの流儀」について触れてみよう。BMWの最高級サルーンとして君臨してきた「7シリーズ」。一方、新たなラグジュアリーカーとして注目が集まる「X7」。この2台はカタチも生い立ちも異なるが、BMWの流儀はたしかに受け継がれている。(Motor Magazine 2022年4月号より)

BMW最後の12気筒は味わわなければ後悔する

直接的なライバルとの比較でいえば、もっとも基本設計が古いのが現在の7シリーズだが、その走りは今も輝きを放つ。芯材にカーボンを用いるモノコックボディは未だ剛性不足も、カーボンの減衰癖も一切感じさせず、こちらも速度域を問わずしっとりと潤いのあるフィードバックをドライバーにもたらしてくれる。

特等席は運転席というところではX7にもM760Liにも違いはない。だが、運転席に座らないとなにやら猛烈に損している感じがするのは、やはりM760Liのほうだ。その独特の味わいの源泉ともいえるのは、やはり謹製と申したくなる6.6L V12ツインターボだ。

BMWとV12の関係は1980年代後半以降に遡るが、以降四世代、このM760Liに搭載されるN74に至るまで進化を続けてきた。そして2022年、恐らくその幕を閉じることになる。先述の北米市場向けファイナルエディションは、これが最後の気筒と明言されており、過去にBMWの12気筒を所有したユーザーに12台を納めるかたちになっている。日本で同種の仕様が登場するかはわからないが、ここ数カ月中には何らかのアナウンスがあると思う。 

609psの最高出力と850Nmの最大トルクを発する6.6Lツインターボは、物量が織りなす豊かさをこれでもかと伝えてくる。2.3トンの車体を発進からしずしずと押し出すトルクは絹のように滑らかなタッチで、そのままエンジンを回していけばじわじわと湧き出すパワーがその粒立ちを高めていく。ともあれ始終これ以上はないという上質さを感じさせながらも、音質や高回転域の伸び感がある点に、BMWに期待する高揚感がしっかり宿っている。

N74が幕を閉じ、モーターへと置き換わる、そんな事象もいずれは世の習いと言われるのだろうし、高級車にはむしろその方が相応しいという考え方もある。でも内燃機だから醸し出せる官能性という面はモーターには担えるものではない。最上の味わいとロマンを感じさせてくれる、その荘厳なエンジンを完璧なかたちで味わわせてくれる、上品なタッチのシャシとドライブトレーンを擁したM760Liこそ、個人的にはBMWの総代に相応しいと思う。(文:渡辺敏史/写真:井上雅行)

画像: V12ツインターボはM760Li xDrive(左)がBMW唯一の搭載車。X7 xDrive40d Mスポーツ(右)搭載の直6ディーゼルターボはMHEV化された。

V12ツインターボはM760Li xDrive(左)がBMW唯一の搭載車。X7 xDrive40d Mスポーツ(右)搭載の直6ディーゼルターボはMHEV化された。

BMW X7 xDrive40d Mスポーツ 主要諸元

●全長×全幅×全高:5165×2000×1835mm
●ホイールベース:3105mm
●車両重量:2510kg
●エンジン:直6 DOHCディーゼルターボ+モーター
●総排気量:2992cc
●最高出力:250kW(340ps)/4400rpm
●最大トルク:700Nm/1750-2250rpm
●モーター最高出力:8kW(11ps)/10000rpm
●モーター最大トルク:53Nm/500rpm(原動機始動時)、35Nm/2500rpm(原動機アシスト時)
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量: 軽油・80L
●WLTCモード燃費:11.9km/L
●タイヤサイズ:285/45R21
●車両価格(税込):1305万円

BMW M760Li xDrive 主要諸元

●全長×全幅×全高:5265×1900×1485mm
●ホイールベース:3210mm
●車両重量:2320kg
エンジン:V12 DOHCツインターボ
●総排気量:6591cc
●最高出力:448kW(609ps)/5500rpm
●最大トルク:850Nm/1550-5000rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・78L
●WLTCモード燃費:6.7km/L
●タイヤサイズ:前245/40R20、後275/35R20
●車両価格(税込):2665万円

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