高い運動性能を実現する新開発のボディと足まわり
「プロサングエはホンモノのスポーツカーです。そしてフェラーリのスポーツカーであるからには、パフォーマンスを追求する。こうして誕生したのが、プロサングエなのです」
フェラーリのコマーシャル&マーケティング担当役員であるエンリコ・ガリエラ氏は、穏やかな口調でそう言い放った。
長らく噂されてきたフェラーリ初の4ドア4シーターモデル、プロサングエ。これがSUVであると信じてきた人々にとって、彼の言葉は意外かもしれない。しかし、フェラーリはプロサングエが「SUVのように使える」ことは認めても、「プロサングエがSUVである」とは決して認めない。それは、冒頭で述べたとおり、フェラーリはプロサングエをスポーツカーと位置づけて開発したからである。
そのこだわりは、パワートレーンのレイアウトにも表れている。自然吸気式の6.5L V12エンジンはフロントに搭載されるが、8速DCTのギアボックスは後車軸上に置かれる。こうして、重量物を極力ホイールベース間に置くことでヨー慣性モーメントを最小限に抑えようとしたのだ。
一方でプロサングエは4WDなので、前車軸にもエンジントルクを伝達する必要がある。そこで、エンジン直後にパワートランスファーユニット(PTU)を配置。これにより、エンジントルクをフロントとリアに分割するとともに、その内部に、左右の前輪に伝達するトルクを個別に制御する機能を搭載し、駆動力によるトルクベクトリングを実現した。したがって、ブレーキトルクベクタリングとはまったく別物の、「加速しながら曲がっていく」感触を味わえることだろう。
こうしたレイアウトを可能にするため、プロサングエのボディはゼロから開発された。その構造はアルミスプペースフレームを基本としており、GTC4ルッソとの比較で捻れ剛性は+30%、曲げ剛性は+25%を達成したという。またルーフはカーボン製が標準。これが重心高を下げる役割を果たしていることは言うまでもない。
アクティブサスペンションによって「歴史的な壁」をクリア
ただし、ガリエラ氏は「新開発のアクティブサスペンションがなかったら、プロサングエは誕生しなかった」と言明する。「創業者のエンツォはいくつもの4シーターモデルを生み出しました。実は4ドアモデルも開発しようとして、ピニンファリーナとプロトタイプまで試作しましたが、『フェラーリに相応しいパフォーマンスが実現できていない』ことを理由に製品化されませんでした」
この「歴史的な壁」を乗り越える原動力となったのがアクティブサスペンションだった。モーターとリサーキュレーティングボールスクリュー(回転運動を直線運動に変換する機構)により4輪のホイール位置を個別に制御。48Vシステムで駆動されるモーターのパワーは強大なうえに最高20Hzという高速制御が可能で、ロールやピッチを30%減少させる効果がある。
しかも、このアクティブサスペンションは不自然なほどボディの挙動を抑え込むのではなく、ドライバーが違和感を覚えない範囲で、タイヤの接地性を確保することを最大の目的としている。つまり、あくまでもパフォーマンス重視の設定なのだ。
エクステリアはシンプルかつ優雅な曲線で構成されていて魅力的。1589mmの全高をあまり意識させない点でも、見事な仕上がりといえる。もっとも、このデザインの最大の注目ポイントはリアドアを後ヒンジとした観音開きにあるといっていい。フェラーリはこれをウェルカムドアと呼んでいるが、数字以上にキャビンが広々とした印象を与えるはずだ。
しかも、4人分のシートは基本的にすべて同じ仕様で優れた快適性とホールド性を実現。こうしたスポーツドライビングへのこだわりが、一般的なSUVとプロサングエの最大の違いといって間違いないだろう。(文:大谷達也/写真:フェラーリジャパン)
■フェラーリ プロサングエ主要諸元
●全長×全幅×全高:4973×2028×1589mm
●ホイールベース:3018mm
●車両重量:2033kg(乾燥重量)
●エンジン:V12 DOHC
●総排気量:6496cc
●最高出力:725ps/7750rpm
●最大トルク:716Nm/6250rpm
●トランスミッション:8速DCT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム ・100L
●タイヤサイズ:前255/35R22、後315/30R23