2010年1月、アウディの主力モデルと呼ぶべきA4/A5シリーズにA5スポーツバックが加わった。4ドアセダンと2ドアクーペを融合させたコンセプトは「緻密かつ流麗」で、アウディというブランドを象徴する1台として話題となった。ここでは日本上陸間もなく行われた試乗テストの模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2010年3月号より)

洗練度が増した変速フィール、より個性的な存在感を持つ

走らせるうち気づいたのは、どうもこのA5スポーツバックの走りの感触は、以前のアウディとは微妙に違っているということだ。アクセル操作に対するトルクの出方やSトロニックの変速感が、以前のように鋭さばかり目立つのではなく、スムーズで洗練を感じさせるフィーリングへと深化しているように感じた。

それはステアリングのフィールやサスペンションのストローク感にしても同様で、全体にしっとり感が増しているように思える。今回の個体だけでなく何台にも乗って同じ印象を抱いたことから、きっと目に見えない改良の成果ではないかと睨んでいるのだが……。あるいは、これはA5スポーツバック特有のものではなく、A4/A5シリーズ全体の熟成の為せる技かもしれない。だとすればなおのこと、大歓迎だ。

フットワークは、A5クーペとA4セダン/アバントのちょうど中間的な特性だと言っていいだろう。重心の低さ、そしてワイドなトレッドの恩恵でターンインは正確そのもの。その後、旋回姿勢に入るまでの動きはホイールベースが長いだけにクーペほどシャープではないが、少しだけ待ってやればクワトロシステムが後輪により多くのトルクを配分することもあって大きなアンダーステアを感じさせることなく曲がっていき、豪快な脱出加速を得ることができる。

クーペよりは後席に人を乗せる機会もあるだろうクルマのキャラクターを考えれば、このぐらいがスポーティさと安定感をうまい案配で両立させた、ちょうど良いところではないだろうか。

快適性という意味では、Sラインの場合、ADSをコンフォートにセットしていても感触は硬めだ。とは言えボディの剛性感が高く、また突き上げ感や揺さぶられ感もないため不快というほどではないから、Sラインを選ぶようなスポーティ志向のドライバーなら、十分納得できる乗り味だと言えるだろう。

ただし、個人的にはSラインではなく19インチタイヤ&ホイールとADSの組み合わせを選んだ方が、快適性と走りのバランスはさらに上と感じた。もっともこのあたりは、走りだけでなく外観の好みまで含めて、ベストの解は異なってきそうである。

A5スポーツバックがターゲットとしているのは、A4シリーズでは飽き足らないが、A5では2ドアということからライフスタイルに合わないと感じている層だ。最近勢いに乗っているアウディだけに、主力のA4シリーズは街ですれ違う機会も増えており、輸入車には個性を求めたいという人にとっては食指が動かない状況となりつつあるだけに、十分ニーズはあるということだろう。

最初に書いた、このクルマが必要となる意味というのは、まさにそこにある。たとえば5年前のアウディの販売台数だったら、こういう形でアウディの中での差別化を図る必要はなかっただろう。つまりアウディは、このクルマの企画が持ち上がった時点で、すでに今日の隆盛を確信していたということになる。

優れた商品力とは、モノ自体が持つ力だけでなくこうした背景まで含んで語るべきものだ。アウディの今の強さは、まさにそこにある。実際、発表直後の反響は上々だという。このタイミングでのA5スポーツバックの投入には、そんな今のアウディの勢いが如実に表れている。この巧さには、脱帽だ。(文:島下泰久/写真:永元秀和)

画像: A4セダンと共通したインテリアデザインながら、着座位置が低めのため、ウインドウ越しの視界はA4とは異なる印象を受ける。

A4セダンと共通したインテリアデザインながら、着座位置が低めのため、ウインドウ越しの視界はA4とは異なる印象を受ける。

アウディA5スポーツバック 2.0TFSIクワトロ 主要諸元

●全長×全幅×全高:4710×1855×1390mm
●ホイールベース:2810mm
●車両重量:1710kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1984cc
●最高出力:155kW(211ps)/4300-6000rpm
●最大トルク:350Nm/1500-4200rpm
●トランスミッション:7速DCT
●駆動方式:4WD
●車両価格:575万円(2010年当時)

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