これまでも、そしてこれからも、実用性とは異なる価値観でその存在意義を問われるのがこのカテゴリー。趣味性や官能性といった尺度も重要な中で、電動化の新たなる可能性が具体的に提示された年でもあった。(Motor Magazine2023年2月号より)

ミッドシップモデルは将来の電動化への布石

スポーツカーやスーパーカーの世界も、引き続き公道を走りたいというのであれば、電動化は必須の条件である。とはいえ、実用車とは違って趣味性が高く、デザインやスペックと並んで官能評価も重要なスポーツカー&スーパーカーカテゴリーではなかなか難しい。再出発であったり、まったく新しいブランドだったりするならば、まだしも電動化を一気に進めるという判断も可能だろう。

画像: ポルシェ 911GT3。911シリーズでモータースポーツ直系の歴史を備える硬派のスポーツモデルがGT3だ。

ポルシェ 911GT3。911シリーズでモータースポーツ直系の歴史を備える硬派のスポーツモデルがGT3だ。

けれども、内燃機関で名声を積み重ねてきたブランドやモデルにとっては正念場が続く。ライバルたちはもちろん、世界のクルマ好きの趣向も探りつつ、電動化を進めなければならないからだ。

それゆえ2022年は引き続き、伝統と未来が交差する年となった。スポーツカーの世界における電動化については、登場したモデルだけを見れば、さほど積極的には思えないかもしれない。とはいえ、将来的な変化への布石を拾い集めることはできるだろう。 

ポルシェのように軽量モデル(ゆえに高性能グレード)を積極的に投じたブランドもあって、もちろんそれは自動車すべてにとっての善であるとはいうものの、今まで以上に重要な取り組みになってきた。バッテリー搭載による重量増への対処が必須となることを見越しているとも言えるからだ。 

昨年に引き続き、ミッドシップモデルへの注目が高まったことも、将来的なバッテリー搭載を計画した結果だと言っていい。

スポーツカーにとっての将来的なシナリオも吟味

スポーツカーカテゴリーのなかでもっとも衝撃的だったのが「SL」だ。メルセデス・ベンツではなくてAMG専売となり、+2シーターとなって、ソフトトップへと回帰した。これらの変化そのものは、電動化への道筋とは一見無関係のようにも思える。

画像: アルピーヌ A110。1963年に登場したオリジナルと同名で日本では2018年にデビューした現代版A110。1.8L直4ターボエンジンをミッドに横置き搭載した後輪駆動のライトウエイトスポーツがマイチェンされた。

アルピーヌ A110。1963年に登場したオリジナルと同名で日本では2018年にデビューした現代版A110。1.8L直4ターボエンジンをミッドに横置き搭載した後輪駆動のライトウエイトスポーツがマイチェンされた。

けれども日本仕様として導入されたSL、つまり4気筒ターボ+BSGという新グレードの設定そのものに、メルセデスAMGの将来的な思惑が透けて見える気がしてならない。

それは、エンジンの官能性とは無縁の世界でもAMG流のスポーツカー観を作ってみせる、という意気込みだ。もちろん本国仕様には新型用にもV8グレードが存在し、北米など「そうじゃないと許してくれそうにない」市場には投入されるだろう。

その一方でダウンサイジングされスポーツカーらしい軽快感を取り戻して、あまつさえ一層実用的にもなった新型SLは、従来とは異なる新たなユーザー層を掘り起こし、将来的なSL電動モデルへのポテンシャルカスタマーを育てることになる。

誤解を恐れずに言って、AMGに限らずメルセデスの乗用車用エンジンというと、8気筒や気筒を除けば今も昔も官能性とは無縁だ。BEVへの置換は、少なくともポルシェやフェラーリに比べるとスムーズに進むに違いない。

とはいえクルマ運転好きには何とも複雑な年でもあった。ポルシェ911 GT3や718ケイマンGT4 RS、さらにアルピーヌA110といった世紀的スポーツカーの集大成を見せつけられ、その世界観も捨て難いと未練を再び掻き立てられたのだから。

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