排気量も気筒数も違うがともに300psオーバーを発生
走りに関しては、エンジンが2L直4と1.6L直3という大きな違いがあり、出力やトルクの最大値も1割程度の差がある。
3世代目となるVTECターボエンジンは、従来に対してターボチャージャーの翼の外径や枚数、形状を新設計し、回転イナーシャを低減することでターボ回転数と応答性を向上させ、高出力、高レスポンス、高回転を磨き上げた。
一方、GRヤリスゆずりのGE-GTS型1.6L直3ターボエンジンは、スクエアに近いロングストロークを採用。1618ccという排気量は、ラリーにおけるクラス区分を鑑みたものだ。
過給器付きのエンジンとしてはかなり高い10.5の圧縮比を持ち、D-4Sにより筒内直噴とポート噴射を併用し、吸気ポートがストレートになるよう工夫して急速燃焼を実現しているのも特徴だ。
また、ブースト圧を高めるとともに冷却や排気効率を高め、さらには燃料噴射ポンプ容量を増やし、ウエストゲートの制御を工夫して俊敏なレスポンスを確保したほか、ピストンを重量合わせするなどして、GRヤリスの32ps増となる304psを引き出している。
どちらもパンチの効いた力強い加速を味わえる点では共通するが、フィーリングはそれぞれ異なる。GRカローラは野太いサウンドを放ちながら、いかにも高いブーストをかけたエンジンらしい盛り上がり感のある加速を示す。
3気筒としては勇ましいサウンドを聴かせるが、それが好きになれるかどうかは人によるだろう。参考までに、タイプRは前方排気、GRカローラは後方排気を採用している。お互い性能を追求しながらも、ターボチャージャーにツインスクロールは用いず、比較的こなれた技術の積み重ねで高い性能を引き出している点も興味深い。
最大の違いは駆動方式。FFにこだわるタイプR
こうした高性能エンジンに組み合わされるのが、より操る楽しさを味わうことができる3ペダルの6速MTのみの設定である点は両車に共通していて、どちらもギアチェンジ時に自動的にブリッピングを行いエンジン回転数を合わせる機能も備えている。
ご存じのとおり両車にはFFと4WDという大きな違いがあり、その中で速さを追求してお互いそれぞれのアプローチをしている。
GRカローラには、電子制御多板クラッチを用いたアクティブトルクスプリット4WDシステムを搭載。前後輪のトルク配分を30:70、60:40、50:50から選べる。選択により操縦感覚が変わることは、レーンチェンジ程度でも体感できるほどで、ワインディングロードを攻め気味に走るとなおのこと違いがよくわかる。
後輪に適宜、駆動力を配分してくれるおかげで回頭性に優れ、操縦安定性も高い。駆動力の制御によりいろいろなことができることや、将来的な可能性もあるのは4WDの強みであることには違いない。
そんなことを考えながら、あらためてシビックタイプRに乗ると、やはりどうこう言ってもエンジンが美味しいのはシビックタイプRのほうだと実感する。
かつての自然吸気時代のタイプRが高回転での吹け上がりに醍醐味があったのと比べて現代のタイプRは様相が変わっているが、調律されたサウンドに、最初のひと踏みから感じるレスポンスのリニアさや全域がパワーバンドのようなどこから踏んでもついてくる力強さは、他のクルマではなかなか味わうことのできないものだ。
それなら、このエンジンを積んだ4WDがあれば最強なのにと思ったりもしたのだが、20年ほど前にホンダの開発関係者と話した時のことを思い出した。
当時はランサー エボリューションとインプレッサWRXがしのぎを削っていた頃で、そこにホンダもせっかくタイプRがあるのだから何らかの形で戦いに加わると面白いのにという話をしたところ、ホンダは軽さを大切にしているので、タイプRは2WDで行くという旨の返答に納得した。
ただし、4WDも考えていないわけではないという話も出て気になっていたのだが、おそらくそれがのちにSH-AWDという形で世に出てきたのだと思う。