数少ないホットハッチ2台の受注再開が待ち遠しい
思えば当時はFFでは200ps程度が限界で、それ以上あっても意味がないというのが常識だった。いくらパワーがあっても加速時にフロントが浮いて空転してしまうからだ。現在のように300ps以上のFF車がいくつか存在し、ニュルブルクリンクでも7分台のタイムをマークするという時代が来るとは思いもしなかった。
シビック タイプRも330psものパワーと420Nmのトルクを前2輪で路面に伝えるために、さまざまなことをやっている。ワイドなフェンダーに収められたタイヤは、このクラスでは異例の265サイズという太さを採用する。
シャシについても、キングピンを最適化してタイヤの接地性を高めるデュアルアクシスストラットと呼ぶフロントサスペンションをはじめ、デュアルピニオンESP、アクティブダンパーシステムといった、よかれと思われるものをふんだんに投入している。
さらに、強大なトルクを着実に路面に伝えるべく、フロントサスペンションのジオメトリーを徹底的に煮詰めたほか、グリップが向上して入力が大きくなることに対しても、サスペンションアーム類の剛性や形状の最適化を図り、高い荷重がかかっても十分に性能を発揮できるようにしている。
リアサスペンションもFFながら従来型よりマルチリンク化している。この進化した新世代行プラットフォームを基に世界中の過酷な条件下での走行テストを繰り返し、細部まで煮詰めて究極のFFスポーツシャシに仕上げたのだ。
その成果は走りにも表れている。引き締まっていながらもしなやかに路面を捉えつつ、車速が増すにつれてタイヤを路面に押し付けるかのような感覚。FFながら極めてニュートラルなステア特性で、アクセル、ステアリング、ブレーキのすべての操作に対して応答遅れのない、意のままの走りを実現した。また刺激的な中にも洗練された上質な味わいもある。
そのあたりは、こうしてお互い何かを極めようとしたクルマからそこはかとなく相通じるものが感じ取れるのに対し、あえてこういうクルマを出すのだからと「野性味」を強調したGRカローラとは、趣を異とする部分もある。
こうしたクルマがめっきり少なくなった中、2台のようなクルマが存在してくれるのは嬉しいかぎりだ。それなりに高価でも、両車への期待がいかに大きいかは、受注の再開を心待ちにしている声の多さからもうかがいしれる。(文:岡本幸一郎/写真:井上雅行)
トヨタ GRカローラRZ主要諸元
●全長×全幅×全高:4410×1850×1480mm
●ホイールベース:2640mm
●車両重量:1470kg
●エンジン:直3DOHCターボ
●総排気量:1618cc
●最高出力:224kW(304ps)/6500rpm
●最大トルク:370Nm/3000-5550rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム ・50L
●WLTCモード燃費:12.4km/L
●タイヤサイズ:235/40R18
●車両価格(税込):525万円
ホンダ シビック タイプR主要諸元
●全長×全幅×全高:4595×1890×1405mm
●ホイールベース:2735mm
●車両重量:1430kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●総排気量:1995cc
●最高出力:243kW(330ps)/6500rpm
●最大トルク:420Nm/2600-4000rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム ・47L
●WLTCモード燃費:12.5km/L
●タイヤサイズ:265/30R19
●車両価格(税込):499万7300円