最初の目的地・奥静岡の井川ダムに到着
1957(昭和32)年に完成した日本初の中空重力式コンクリートダムは、堤高が103mと高く、下から眺めているだけでも足がすくんでしまいそうな気がする。堤頂から下を覗き込んだら、どんな気持ちになるのだろうか。私は、とても試してみたいとは思わなかったが……。
鉄道好きのカメラマンが、近くを走る大井川鐵道井川線を見に行こうという。この路線では、日本で唯一のアプト式列車が走っているらしい。急勾配を上るために考案されたアプト式の鉄道は子供のころ何かの本で読んだ記憶があるが、実際に目にするとは思わなかった。これも旅の醍醐味である。
ところで、撮影や休憩で何回かZR-Vを停車させるうち、私は意外なことに気づいた。このクルマ、なんとなく停めたつもりでも駐車場の枠にまっすぐと収まってくれるのだ。近年、ホンダは「クリーンな視界の確保」に熱心で、ボディとガラスエリアの境目をなるべく直線的に仕上げようとしている。
その結果、ボディの見切りも改善されているのだが、こうした努力により、クルマと駐車枠の位置関係が把握しやすくなり、比較的簡単に「まっすぐ停められる」ようになったのだろう。ZR-Vの長所として挙げておきたい。
お約束の「ダムカレー」を食してから、もう1台のe:HEV Zに乗り換える。こちらは上級グレードだけあって、インテリアは本革シートとなり、カラーもブラックとマルーンの2トーンとなる。ブラック一色のXもスポーティで魅力的だが、マルーンの室内は華やかさもあって、もともと高精度な作りのZR-Vのインテリアがより際立つように思えた。
ガソリンFFモデルとe:HEV 4WDモデルの違い
走り出してみると、Xとは足まわりのセッティングが微妙に異なっているように感じられた。これがハイブリッド化に伴うものなのか、それとも駆動方式の違い(試乗したe:HEV Zは4WD)によるものなのかはわからなかったが、私には4WDゆえに許される足まわりのように思える。FFと違って4WDでは駆動力が4輪に配分されるため、接地性を厳しく管理する必要性はFFよりも低いと推測されるからだ。
おかげでe:HEV Zの乗り味は鷹揚で懐が深い。それでいながら、ワインディングロードではXと遜色のない良好なステアリングレスポンスを実現しているほか、節度あるフラット感を保っているので高速走行も苦にならない。快適性とハンドリングのバランスが、Xよりもさらに一段、上のレベルで成立しているように思えたのである。
そうした足まわりの感触と並んで、いやそれ以上に鮮烈な印象を残したのが、e:HEVの仕上がりだった。現行型シビックでデビューした最新のe:HEVは、新開発された2Lエンジンが生み出すパフォーマンスを生かすことで、ノイズやバイブレーションのレベルが格段に低くなったほか、その静けさを保ったまま力強い加速感を示してくれる。とりわけ、アクセルペダルを踏み込んだ直後の、トルクの立ち上がり方が俊敏なことには驚かされた。前述のとおり、1.5Lエンジンのレスポンスも良好だったが、e:HEVはそのさらに上をいく感じだ。
ハンドルに伝わってくるパワートレーンのバイブレーションがエンジン車よりも一段と抑えられている点も印象的だったが、それと並んで驚きだったのは、エンジン走行モードとなっても、まったくといっていいほどハンドルからバイブレーションが感じられなかったことにある。
ホンダ独自のe:HEVは、一般的なシリーズハイブリッドとは異なり、高速走行時にはエンジンと前輪をメカニカルに接続して効率をさらに高める点に特徴がある。これがエンジン走行モードだが、エンジンと前輪がつながれば、エンジンの振動が前輪経由でハンドルまで伝わってきたとしても不思議ではない。ところが、これが実質的に皆無なのだ。
つまり、レスポンスの良さだけでなく、静粛性やバイブレーションの小ささでもe:HEVには見逃せないメリットがあるのだ。
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