この連載では、昭和30年~55年(1955年〜1980年)までに発売され、名車と呼ばれるクルマたちを詳細に紹介しよう。その第11回目は、安価な車両価格で本格マイカー時代の幕開けを飾った、トヨタのスモーラーカー((軽より大きく小型より小さい500~800ccクラスの当時の呼称)「パブリカ」だ。(現在販売中のMOOK「昭和の名車・完全版Volume.1」より)

大人4人が満足できる居住性を実現

室内空間確保のため、エンジンはフロントアクスルの前にオーバーハングして搭載している。このエンジンは、空冷2気筒OHVで28psを発生した。また結果的にだが4速ミッションも前方に位置することになり、室内への騒音侵入が少ないのもFF車として開発した名残だ。

画像: 当初、FFで開発が進んでいたが知見のない前輪駆動よりも後輪駆動が有利と判断したという。これのおかげで後のトヨタS800のベースができたとも言える。

当初、FFで開発が進んでいたが知見のない前輪駆動よりも後輪駆動が有利と判断したという。これのおかげで後のトヨタS800のベースができたとも言える。

ミッションのメインシャフト直下に配したカウンターシャフトから動力を取り出すことでプロペラシャフトの位置を下げ、センタートンネルの高さも抑えた。その結果、ホイールベース2130mmの3BOXセダンのFRにもかかわらず、大人4人が満足できる居住性を実現した。

動力性能でもモーターマガジン誌:昭和36 (1961)年9月号で、「0-80km/h加速は17.6秒を計測。1人乗車時ならコロナ1000よりは絶対的に速く、1500とほとんど同じくらいである」と評している。ただ、最高速度については「90km/hまでは容易に達するが、110km/h(カタログ値)に達するのは現在の道路状況ではいささか難しい」と、トルク重視のエンジン特性に触れている。

FRのメリットは操縦性にも現れた。コンベンショナルなサスペンション形式とFRの組み合わせが限界域での極めて素直なハンドリングを実現していて「、ワインディングではロックtoロック2.5回転の切れの良いステアリングもあって、コーナリング能力は実用車として驚くほど優れている」と高く評価されている。

画像: サイドミラーレスだった初期のパブリカの広告からのカット。当時はサイドミラーレスもOKだったのだ。女性がドライビングしているのもイメージ作りだ。

サイドミラーレスだった初期のパブリカの広告からのカット。当時はサイドミラーレスもOKだったのだ。女性がドライビングしているのもイメージ作りだ。

さらに「走行性、居住性、経済性など、すべてを総合して考えた場合、38万9000円のこのパブリカは、現在の1000cc以下の国産車の中で、besvalueを持っていると言わざるを得ない(モーターマガジン誌:昭和36年9月号)」と絶賛。まだ技術的に未消化な部分が残っていたFFやRRより、よく調整されたFRの優位性が際立ったモデルだ。

注目されるのは、アメリカの進んだデザイン開発プロセスをトヨタで初めて取り入れたこともある。レンダリングをもとに実物大粘土模型を作製し、塗装・艤装を施したのだ。

しかし、軽自動車並の価格設定を図ったこともあり、その走行性能とは裏腹にコスト削減により貧相なイメージとなったのも事実で、期待ほどの販売台数が得られなかったのは残念だった。高額製品である自動車は、それなりに立派に見えることが求められる時代だったのだ。

トヨタ・パブリカ( 1961年・UP10型)主要諸元

●全長×全幅×全高:3580×1415×1380mm
●ホイールベース:2130mm
●車両重量:580kg
●エンジン型式・種類:OHV/U型・対向2
●排気量:697cc
●最高出力:28ps/4300rpm
●最大トルク:5.4kgm/2800rpm
●トランスミッション:4速MT(コラムシフト)
●タイヤサイズ:6.00-12 2P
●新車価格:38万9000円

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