レクサス、BMWともにフラッグシップにV8を搭載
面白いことに戦後、その精密さと忠実さという点で品質を競い合ってきた日本とドイツの自動車界においては、ことV8に関していうと、それぞれに特有となるような強烈なイメージはほとんどない。とりわけ高性能エンジンの分野でそうだ。
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64年式-クラウン・エイト(トヨタ博物館所蔵)。国産乗用車の最高峰として、1964年に誕生した。エンジンはアルミ合金製の軽量コンパクトなV8ユニット(2599cc)。最高出力は115psを発揮していた。
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ブロック/ヘッド共にアルミ軽合金製を採用し軽量コンパクトな、トヨタ初のV型8気筒OHVエンジン。115ps、単体重量152kgなのでパワーウエイト値は1.32kg/psと4気筒系のR型の1.95より軽量パワフルだった。
けれども各ブランドの歴史を仔細に眺めてみれば、決してV8エンジンがおろそかにされてきたわけではなかったことがわかる。むしろ一国の自動車産業として抱えるエンジンバリエーションの豊富さがV8の存在感を相対的に薄めてしまっていたにすぎない。
たとえばジェネラルブランドのトヨタはクラウンエイトに日本で初めてV8を積んで以来、連綿と8気筒エンジンを作り続けてきたし、そのラグジュアリーブランドであるレクサスに至ってはブランドの起点をV8搭載の大型サルーンに託したほどだった。
ドイツのBMWもまた、ストレート6のイメージがどうしても強いが、V8にも絶えず力を入れてきたブランドである。何より、いにしえの高級モデル路線は、戦後のドイツで初となるV8搭載車50Xシリーズで始まっていた。
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BMW507ロードスターは、1955年にフランクフルトモーターショーで発表され、1959年まで生産された。わずか254台と言う」希少性もさることながら、アルブレヒト・グラーフ・フォン・ゲルツが手掛けた流麗なスタイリングに心奪われる存在だ。写真の個体は、エルヴィス・プレスリーが所有していたモデルで、サンフランシスコ近郊の納屋で発見された。
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3.2L V8OHVは150psを発生する。エルビスの車両は当時は文字通り「ボロボロ」の状態だったがミュンヘンで念入りにレストアが施され、新車状態に生まれ変わった。2016年8月21日、カリフォルニア州ペブル・ビーチで開かれたコンクール・デレガンスでお披露目され、話題となった。
その究極というべき名車507ロードスターは、直6を積んだメルセデスベンツ300SLのライバルとして誕生したが、プラス2気筒分の優位を誇ろうとしたものだった。
いずれのブランド、すなわちBMWとトヨタ、においてもクルマ好きの一般的なイメージとして最初に思い浮かぶエンジン記号はというと、おそらくストレート6で共通することだろう。シルキー6の異名でその名を馳せたBMWは当然のこととして、実はトヨタにもツインカムヘッドのストレート6に名機が多かったからだ。
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手前がレクサスLC500搭載の2UR-GSE。自然吸気のV8DOHCで、ボア94.0×ストローク89.5mm、排気量は4968ccとなる。圧縮比は12.0。奥がM8搭載のS63B44B型V8DOHCツインターボ。ボア89.0×ストローク88.3mmで排気量は4394cc。圧縮比は10.0となる。
翻って現在、やや様相が異なり始めているとはいうものの、BMWとレクサスにおいてはV8がブランドのフラッグシップエンジンとして機能している点は面白い共通項だといえなくもない。
BMWではとくにMの上級モデルにおいて特別なV8ツインターボエンジンを積んでいるし、そのビジネスモデルをなぞったレクサスのFでは磨き抜いたV8自然吸気エンジンを積んでいる。
本稿の主役は、そんな両ブランドにおいて今なお代表的な存在というべき高性能なV8搭載モデル、M8とLC500という2台のラグジュアリー2ドアモデルである。