自動車評論家 西川淳氏は、V8エンジン全般を「手の届く憧れのエンジンの代表」と評する。たとえば浮世離れしたV12とは対照的に、クルマ好きのリアルな憧れを獲得してきた存在だ、と。そのうえで、それぞれにブランドの頂点に立つレクサスLC500 コンバーチブルとBMW M8 クーペコンペティションの試乗を通して、現代の最新V8が演じる「フラッグシップらしさ」の根底を解き明かしてくれた。

強力無比なS63エンジンと素直なハンドリングのM8

M8のベースとなった現行型8シリーズのデビューは18年のこと。その時の様子を今もよく憶えている。なぜかというと初披露の舞台が特別な場所だったからだ。ル・マンである。

画像: M8は12.3インチのインフォメーションディスプレイを搭載。ドライバー側に向いた操作系がスポーティだ。

M8は12.3インチのインフォメーションディスプレイを搭載。ドライバー側に向いた操作系がスポーティだ。

8シリーズの登場は「一体どんな姿になっているの?」的なドキドキのアンベールではなかった。実は発表の時点で我々はすでにクルマのカタチを知っていたのだ。コンセプトカーとしてのグランクーペも先に登場したし、ロードカーのデビュー前から8シリーズはM8 GTとしてレースを戦っていた。

ル・マン24時間レースも当然のことながらその舞台のひとつで、その強力なメディア発信力に期待して、ロードカー仕様をその栄光の舞台において「追って」発表したというわけだった。

裏を返せば6シリーズの後継として誕生した8シリーズは、それまでのグランツアラー然としたキャラクターから大いに方向転換し、スポーツGTとして6から8へ名前を変えて登場したといっていい。何しろ最初にレーシングカーでデビューしているのだから。

そんなわけでM8には競技用ツーリングカーのロードバージョンといった力強い性格が色濃く立ち現れている。4.4LツインターボのS63エンジンは強力無比で、莫大なトルクをフラットに吐き出しつつ、高回転域までしっかりと力を伴った回り方をみせる。

画像: M8のS63型4.4L V8 DOHCツインターボは625ps/750Nmを発生する。トランスミッションは8速AT。

M8のS63型4.4L V8 DOHCツインターボは625ps/750Nmを発生する。トランスミッションは8速AT。

以前のMエンジン、とくに自然吸気時代に比べるとドラマティックさに欠けるきらいもあるが、サウンドの調律はいかにも大排気量エンジン好き(アメリカ人とか)にウケそうな仕立てで、とくにスポーツモード時のボリュームと音質は、今となってはむやみに響かせることが躊躇われるほどの迫力だ。

ドライブフィールの方はというと、動き始めた瞬間から〝手強い手応え〟を覚える。4WDということもあって、大きくて太い前輪の存在感はあまりに強く、柔な腕ひとつではこの車体を振り回すことなど永遠にできそうにない。

けれどもいざ速度域が高くなってくると前輪の自由度は格段に高まっていく。少なくとも置きたい場所に前タイヤを置くことはできる。手強そうに見えて、その実、素直なハンドリングを提供するあたり、さすがはBMW Mのチューニングというものだろう。

完成度の高いスタイルは変えず、中身の熟成には妥協しない

一方のレクサスLCはどうか。

12年にまずはデザインコンセプトとして西海岸のキャルティが北米ショーで世に問うた。ダイナミックで流麗なLF-LCのボディスタイルは瞬く間に世界のクルマ好きから激賞されたが、開発や生産チームの間ではこのカタチを生産に移すことなど不可能だと思われていた。

画像: 手前のLC500は、21インチの鍛造アルミホイールに、フロント245/40R21、リア275/35R21タイヤの組み合わせ。M8が装着するタイヤはフロント275/35R20、リア285/35R20サイズのピレリ P ZEROだった。

手前のLC500は、21インチの鍛造アルミホイールに、フロント245/40R21、リア275/35R21タイヤの組み合わせ。M8が装着するタイヤはフロント275/35R20、リア285/35R20サイズのピレリ P ZEROだった。

しかしLFAなきあと、ブランドのフラッグシップへの期待が一層高まっており、トヨタとしてもこのカタチを市販車にできるだけそのまま実現することで、未来へ向けたレクサスの新たな道筋が生まれると確信していた。

その開発を任されたのが後に社長となる佐藤恒治氏だ。LCの市販デビュー直後にじっくり話を聞く機会があったが、当初、GSのシャシを使って試作車を作ってみたところ、LCとは似ても似つかぬ格好悪さで、これではダメだと新規でFRプラットフォームを起こしたと聞いた。

画像: LC500の5L自然吸気V8DOHCは477ps/540Nmを発生する。組み合せるトランスミッションは10速AT。

LC500の5L自然吸気V8DOHCは477ps/540Nmを発生する。組み合せるトランスミッションは10速AT。

コンセプトカーとほとんど変わらぬ市販モデルを作る。不可能に思われたことを可能にしたこの瞬間こそ、トヨタおよびレクサスのデザインが変わり始めた瞬間でもあった。今日のプリウスやクラウンの成功を導いたのはLCの登場にあったと言っても過言ではないだろう。

デビューから早8年が経ったというのに、いまなおLCのスタイリングが新鮮さを失っていないように見える理由は、もちろんさほど販売量の伸びないクーペであるということにも因るけれど、それにもましてこだわり抜いて実現されたデザインの完成度の高さがあるのだと思う。デビュー以来、ほとんどデザインに手を加えられていないこともまたその裏返しだと言っていい。

先だって何度目かの改良を受けた。LCはデビュー以来、足まわりを中心によく手が入ってきたモデルだ。それだけ当初の走りには不満もあったということ。最新モデルにおいてはついにランフラットタイヤを諦め、見合ったチューニングを施したことで以前とはまるで違う素直なハンドリングと直進安定性をみせるようになった。

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