静粛性の高さに驚き、走り味には楽しさが宿る
試乗の舞台は北海道にあるホンダの鷹栖プルービンググラウンド。まず唸らされたのが静粛性だった。効いているのは、パワーユニットの補機類のマウント方法。これらを個別に車体に組み付けると、それぞれ別々に振動を起こしてしまう。そこで、これらを強固なブラケットに一体化した上で、車体に搭載しているのだ。
またクラリティでは加速時に目立ったゴォーッという音を低減するべく、水素供給用インジェクターの作動音も低減。遮音材、吸音材の配置の適正化も行っている。
SPORTモードでは電子音が付け足される。エンジン音の模倣でもSFチックなものでもない伸び感を味わわせてくれるサウンドには好印象を抱いた。
走り自体の質も高く、しかも楽しさをしっかり備えている。2トンの車重に対して最高出力177ps、最大トルク310Nmというスペックながら、全域における力強いトルクのおかげで不満は感じられない。痛快なのがアクセルペダルを深く踏み込んだ時の鋭い加速。実はこの時にはFCスタックからの出力のほかにバッテリーからの電気を加勢させて、ブースターのように使っているのだ。
似たような機構は2023年登場のBMW iX5ハイドロジェンにも備わっていた。大容量バッテリーを搭載するプラグインFCEVならではの楽しさの演出である。
内燃エンジン車にはない「特技」がある
フットワークも期待以上だった。高圧水素タンク搭載部を補強にも用いるなどしたボディは剛性感が高く、振幅感応式ダンパーを採用したサスペンションは、したたかな路面追従性を実現。おかげで山岳路では優れたレスポンスを披露しながら、高速周回路ではビシッと直進してくれる。前述のとおりの静粛性、レスポンスも相まって、場面を問わず質の高い走りを満喫することができた。
車両から外部への給電機能にも触れておこう。普通充電口に差し込むだけで100V電源が取り出せる車外給電用コネクターは標準装備。また、別売りのパワーエクスポーターを接続すれば、最大で一般家庭の4日分の電力供給もできる。これも、大容量バッテリーを搭載するメリット。屋外での各種利用や、あるいは非常用電源として、内燃エンジン車にはない仕方で活用できるはずだ。
ホンダCR-V e:FCEVは、これまでセダンボディを採用してきたクラリティ フューエルセルから一転、SUVボディの採用、外部充電機能の搭載などにより、燃料電池自動車の旨味を最大限に引き出し、一方でデメリットを最小に抑えた魅力的な1台として、ようやく市場に帰ってきた。クルマとしての間口も、奥行きも、間違いなく拡大している。
こんな上出来なクルマがあるのだからホンダには「燃料電池は乗用車より大型トラックや定置電源向きだ」と社長に言わせたりせず、課題の水素充填インフラの充実にも、トヨタとの連携を含む然るべき対応を行い、その可能性をさらに推し進めてほしい。クローズドコース内とはいえ、晩夏の北海道での爽快なドライブに、改めて強くそう思わされたのである。
【ホンダ CR-V e:FCEV 主要諸元】
●Motor 型式:MCF91 種類:交流同期電動機 最高出力:130kW(177ps) 最大トルク:310Nm(31.6kgm)●Fuel cell スタック種類:固体高分子形スタック 最高出力:92.2kW(125ps) タンク本数:2 燃料・タンク容量:圧縮水素・109L(前方53L/後方56L) ●Performance 燃料消費量(WLTCモード):129km/kg 一充填走行距離(WLTCモード):621km 一充電走行距離(WLTCモード):61km ●Dimension&Weight 全長×全幅×全高:4805×1865×1690mm ホイールベース:2700mm 車両重量:2010kg 最小回転直径:5.5m ●Chassis 駆動方式:FF ステアリング形式:ラック&ピニオン サスペンション形式:前ストラット/後マルチリンク ブレーキ:前Vディスク/後ディスク タイヤサイズ:235/60R18 ●Price 車両価格:8,094,900円※リース販売のみ