クルマを通じて紡がれる縁や愛情を描く

Ⓒ2024「オールドカー」製作委員会
芸人、俳優として活動する、あべこうじ。以前にゆずのPV「地下街」を監督したことがあったが、劇場映画を初監督。すべてのロケが鹿児島県(鹿児島市、姶良市、霧島市、桜島など)で行われた。現在では「オールドカー」と呼ばれる旧車たちを物語の軸として、親子三代にわたる、クルマを通じて紡がれる縁や愛情が描かれた良作だ。
鹿児島県霧島市でコンビニエンスストアを営業する源太(哀川翔)。彼の趣味は3代目の日産スカイライン ハードトップ2000GT(通称ハコスカ)でオールドカー愛好者たちと交流すること。そんなおり、父親(西岡徳馬)が他界、妻の千鶴絵(泉ピン子)に「もうすぐ連れて行く」と言い残した。果たして何のことなのか?
疑問を残しつつ源太はそれから後、知り合いの整備工場で父親の残した「てんとう虫=スバル360」を見つける。父親はこのクルマで母親をどこかに連れて行こうとしていたのでは? と考えた源太は、時間をかけスバル360をきれいにレストアしていく。
そんな日々の中、息子・駆(新原泰佑)の抱える問題が発覚。コンビニ営業も苦しい日々の中、源太は愛車ハコスカを手放すことを決意。それは何よりも家族のことを考えての決断だった。それから後、源太はレストアの済んだスバル360に母を乗せて、父親が千鶴絵を連れて行きたかった場所に親子で出かけて行くことに。その場所とは・・・。
愛すべきオールドカーたち

Ⓒ2024「オールドカー」製作委員会
劇中には、タイトルの「オールドカー」が示すように印象的な旧車が数多く登場するが、軸となる3台を紹介しておこう。
まず、日産が1968年から72年まで生産した、3代目スカイライン。当時「ハコスカ」と呼ばれ、一世を風靡したCMでのキャッチフレーズが“愛のスカイライン”。登場する車両はGT-RではなくチューンされたGT-Xだが、それでも中古車市場では1000万円以上の価格で取引きされることもある。そんな値段がつくハコスカだから、源太が店の資金繰りや息子のために手放すことを考えるのも、やむなしかもしれない。
父親が千鶴絵を乗せてある場所へ連れて行こうとしたのは、父親が若い頃に乗っていた“てんとう虫”の愛称で呼ばれたスバル360。1958年から70年まで生産・販売されていた軽乗用車だ。
そして源太の妻・和美(鈴木砂羽)が若い頃に乗っていたのが、AE86スプリンタートレノ。若い頃にはよく2人でツーリングに出かけていたような描写もあり、かつては走り屋夫婦だったのだろうと推測される。
さて、登場車の話はこれくらいにして、映画の話に。前述のように映画は全編鹿児島でロケが行われている。主演の哀川翔は鹿児島出身ということもあり、地元感が滲み出てくるような存在を見せる。霧島市、姶良市、鹿児島市、桜島などの景観もオールドカーたちの姿にマッチして見える。