シリーズ最強の550psツインターボを搭載する新たなトップモデル
これまでのシリーズ最高峰モデルであるパナメーラ ターボの2086万円に対し、400万円近くもアップの2481万円。そんな日本仕様の価格でも話題を呼んだのが、パナメーラ シリーズの新たなトップモデルとなる「パナメーラ ターボS」だ。
しかし、そのアピアランスはパナメーラ ターボとそれほど大きな差はない。リアウインドウ下端から立ち上がると同時に、左右に羽根を開くように面積を拡大してより大きな効果を狙う4ウェイ展開式のリアスポイラーは、新たにボディと同色化をされたとは言え、そうしたリファインは「見過ごされてしまいそう」な奥ゆかしさだし、標準で20インチというタイヤもパナメーラ ターボでオプションをチョイスしてしまえば同サイズとなる。スペーサーによって拡大されるリアのトレッドに至っては、わずかに5mmの変更。当然、ルックス上でのアピールにはほとんど貢献していないという状況だ。
アゲートグレーメタリックのボディやブラック/クリームのツートンのレザーインテリアは、ターボSグレードのみに用意される専用色というが、これとてもそんな内情を知る人でなければわからないもので、識別のポイントとしては少々弱い。
というわけで、リアエンドに「ターボS」のエンブレムが加わりはするものの、冒頭の価格差を相応のドレスアップにも期待する向きには、このニューモデルのアピール度は決して高いとは言えそうにない。
しからば、その価格差は一体何によるものなのか。それはパナメーラ ターボではオプションとなる、走りにかかわるアイテムほぼすべてが「パナメーラ ターボSでは標準化されるため」というのが正解だ。
電子制御式の可変減衰力ダンパーPASMとともに、ベース車両にも採用のエアサスペンションに加え、前後にアクティブスタビライザーPDCCも標準で用いるのがパナメーラターボSの特徴。また、リアデフには電子制御によるLSD効果を発揮するとともPTVプラスも標準採用。これもベース車両ではオプションとなるアイテムだ。
そして、「ターボSならでは」と紹介できるのが、専用チューニングにより最高出力と最大トルクに50psと50Nmが上乗せされたV8エンジンだ。マネージメントシステムの変更とともに、出力とレスポンスの向上を目的としてターボチャージャーの排気側ホイールをインコネル製からより軽量なチタニウム/アルミニウム合金製へと変更。また、そんなスポーティなテイストをより高めるべく、スポーツエキゾースシステムを標準装備するのもニュースになっている。

よりワイドになったリアトレッドとサイドスカート、標準の20インチタイヤなどがターボSの識別点だが、そのアピールはいささか控えめ。
0→100km/h加速は3.8秒、まさに超一級の高性能セダン
かくして、そんな内容の持ち主であるパナメーラ ターボSの走りの実力は、まさに「世界超一級4ドアスーパースポーツ」としか表現のしようのないものだった。
ローンチコントロール機能を用いてのカタパルト発進にトライすれば、その0→100km/h加速タイムはわずかに3.8秒! あの911GT3ですら4.1秒なのだから、このモデルの速さが「迂闊にアクセルペダルを踏み込むと目が追いつかないほど」という感覚も納得してもらえるだろう。
一方で、そうした圧倒的な加速力の片鱗は、例えばエンジン回転数が2000rpm台でも実感できる。それゆえ、街乗りでも扱い辛さはまったくないし、追い越しシーンもすごぶる楽で、かつ安全ということになる。
さすがに路面凹凸の乗り越え時などでは、ばね下重量の大きさを意識させられるシーンはあったものの、基本的には望外なまでにしなやかなフットワークのテイストを味わうことが可能。それは、ダンパー減衰力を高めると同時にエアスプリングの容量を小さくすることでスプリングレートもアップさせるPASMのスポーツモードを選択した場合でも、基本的には変わらない。その上で、ワインディングロードへと繰り出せば、相当に速いペースでも徹頭徹尾のオンザレール感が味わえる。その背景には、例のPDCCやPTVプラスといったシステムの、あからさまな介入を感じさせない黒子的な働きぶりもあるに違いない。
一体どこで、どんな人が、何のためにノーマルのパナメーラ ターボ以上のパフォーマンスを必要とするのか。たしかに、そうした理詰めな質問に対する合理的な解答を導き出すことは難しいが、ひとつ言えるのは「この世の中、上には上を求める人は必ず存在する」ということ。冒頭掲げた価格差と引き換えに0→100km/hタイムをコンマ2秒短縮し、最高速を3km/h上乗せしたパナメーラ ターボSというのは、そんなカスタマーに対する模範解答というわけだ。(文:河村康彦)

スポーツ性と高級感にこだわったインテリア。トランスミッションは7速PDK。アイドリングストップ機能も備わる。
ポルシェ パナメーラ ターボS 主要諸元
●全長×全幅×全高:4970×1931×1418mm
●ホイールベース:2920mm
●車両重量:1995kg
●エンジン:V8DOHCツインターボ
●排気量:4806cc
●最高出力:405kW(550ps)/6000rpm
●最大トルク:750Nm/2250-4500rpm
●オーバーブースト時最大トルク:800Nm/2500-4000rpm
●トランスミッション:7速DCT
●駆動方式:4WD
●0→100km/h加速:3.8秒
●最高速度: 306km/h(リミッター)
※EU準拠