2011年9月、MINI初の2シーターモデル「MINI クーぺ」が日本に上陸、JCW(ジョン・クーパー・ワークス)も設定されて登場した。BMW MINIとして2代目となるが、日本市場においてJCWの人気は高く、当時から高性能を示すサブブランドとして絶大な知名度を誇っていた。では、モータースポーツシーンから生まれたJCWはどんな実力を持っていたのか、今回は2011年9月に富士スピードウェイで開催されたスペシャルイベントの模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2011年12月号より)

コンバーチブルやクラブマンにもJCWを設定

秋晴れの澄んだ青空の下、富士スピードウェイの名物である長いストレートを軽快なエキゾーストサウンドと共に駆け抜ける色鮮やかなJCWたち。そんな姿を見れば、誰だって「MINIってこんなにサーキットが似合うモデルだったんだ」と改めて認識させられるに違いない。

だが、BMWがビジネスを手掛けようとした当初は「MINIとモータースポーツは、共存が可能な関係にあるのか?」と、そんな疑問も内部で上がったのだという。結局のところ「何とか行けそう」という判断からJCW(ジョン・クーパー・ワークス)をサブブランドとして展開させる決断が下されたという。無論、それが大正解であったことに今や疑問を呈する人はいないだろう。

そのブランドの礎を築いたジョン・クーパー氏が、2度のF1チャンピオンと3度のモンテカルロラリー優勝を勝ち取ったマシンを手がけた英国人であるというヒストリーとともに生まれたMINI JCWシリーズは、何と日本が世界で二番目の市場。そもそもMINIは日本での人気が高く、BMWが関係を持つ以前のオリジナルミニも、「日本での販売好調ゆえに延命された」というのはつとに有名な話だ。

そして、そんな伝説的ストーリーはこのJCWでも再現されそう。ハッチバックモデルのみにではなく、コンバーチブルやクラブマンにまでJCWが設定されるに至ったのは、おそらく日本市場での好調な売れ行きが想定されたからに違いないからだ。

オリジナルシリーズ中のホッテストバージョンである「クーパーS」に搭載されるターボ付きエンジンをベースに、ピストンやシリンダーヘッドの強化、吸排気系のリファインなどを踏まえての高ブースト化で出力を高め、それを受け止めるべくサスペンションやブレーキなどにも専用チューニングを実施。最高出力をクーパーS比で21ps高めたツインスクロールターボ付きの1.6Lエンジンは、3タイプのボディに共通。一方、クーバーSがAT仕様も用意するのに対し、JCWは3ペダル式のMTのみという設定だ。

見ても乗っても「わかりやすいスポーティさ」を表現

そんなJCWで、富士スピードウェイのピットロードを後に。60km/hの制限が解除された本コースへと合流すべくアクセルペダルを深く踏み込むと、直線的に伸びる加速と共に耳に届く乾いたエキゾーストサウンドが心地良い。

ハッチバック、クラブマン、そしてコンバーチブルという順で重量が増すJCWだが、体感上の加速感の違いはさほど大きくはない。いずれにしても、シンクロがしっかり効いたシフトを、スピードの高まりと共にテンポ良く操るのは気分の良い作業。多少エンジン回転数を落としても、わずかに1850rpmから最大トルクを発揮する心臓のお陰で速度回復がイージーな一方、最高出力発生回転数である6000rpmをオーバーしてもパワーの頭打ち感は軽微。3速で立ち上がる最終コーナーからフルスロットルのまま繋がりの良いギア比のMTをシフトアップして行くと、1コーナー入り口手前でスピードメーターの針は220km/hほどを示すことになる。

そんなストレートエンドでのフルブレーキング時に、もっとも好印象を味わわせてくれたのは、実はクラブマンだった。前輪に荷重が集中し、どうしても後輪グリップ感が希薄になりがちなこうしたシーンでは、ハッチバックやコンバーチブルに対するプラス80mmのホイールベースが効いている印象。ただし、いずれのモデルでもブレーキのがっしりと信頼感に富んだ効き味に変わりはない。

一方、コーナリングシーンで最も軽快、かつ敏捷な感覚を味わわせてくれたのはハッチバックモデル。MINIが標榜する「ゴーカートフィーリング」を忠実に再現させているのは、全シリーズ中でこのモデルが最右翼だ。

ヘアピンや最終コーナーなどタイトなターンからの立ち上がりシーンではトラクション能力に限界も感じられたが、ここで強力な効きを示す機械式LSDなどを加えると、速さには磨きがかかる一方で、トルクステアや振動の発生など、フィーリングの悪化は免れないだろう。レーシングマシンではなく、あくまでも「レーシングスピリットを投入した」というJCWWにとって、そこまでこだわった速さの追求は確かに得策ではなさそう。大多数のJCWユーザーはスポーティさは歓迎してもスパルタンであることは望まないはず。となれば、見ても乗っても「わかりやすいスポーティさ」を表現する現在のJCWのチューニング&ドレスアップのレベルは、なるほどなかなか巧みなところを突いている。

気分の高揚感はタップリと演出する一方で、扱い難さを伴う領域にまでは踏み込まない。おそらくこれが、JCWの鉄則でもあるはず。今回、国際サーキットを舞台としたテストドライブで、改めてそんな印象を感じさせられた。(文:河村康彦)

MINI ジョン・クーパー・ワークス(ハッチバック) 主要諸元

●全長×全幅×全高:3715×1685×1430mm 
●ホイールベース:2465mm 
●車両重量:1200kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1598cc
●最高出力:155kW(211ps)/6000rpm
●最大トルク:280Nm(28.6kgm)/1850-5600rpm 
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FF
●車両価格(税込):390万円(2011年当時)

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