刺激的なトンガッた演出が印象的なIS F
そんなM3クーペこそが、レクサスIS Fのターゲットである。3シリーズと同じセグメントに属するISの6気筒エンジンが前提のエンジンベイにV型8気筒エンジンを押し込むという成り立ちも似ている。しかし、こちらのボディは4ドアのみであり、そのエンジン排気量は5L。しかも組み合わされるのは8速のギアを持つトルクコンバーター式のATである。
このエンジンは、LS600h用のV型8気筒5Lユニットがベースとなっている。高強度のシリンダーヘッドには軽量なチタン製バルブが組み込まれ、さらにはデュアルインテークシステムの採用、排気系の大口径化などによって、より高回転域まで回し、より多くの空気を吸い込み、そして吐き出せるよう仕立てられているわけだ。
実際、トルクもパワーも十二分にある。しかし、それ以上に印象的なのは刺激的な演出の数々だ。中でも3600rpmに達してデュアルインテークシステムのセカンダリーポートが開くや耳に飛び込む、高音から重低音までいくつもの音色が重なり合った吸気音は、まさに圧巻の迫力。しかも8速ATは、Mレンジでは1速以外ではトルクコンバーターのスリップがない素早い変速を可能としており、その小さなステップ比と合わせて、ダイレクト感に満ちた加速を堪能させてくれる。
しかし一方で、日常域では物足りなさを感じる部分もある。その8速ATはDレンジではあくまで普通のATであり、右足の動きとトラクションの掛かりとの間に、どうしてもワンクッション挟まる。ハードなサスペンションも、サーキットなら良いのかもしれないが、日常域では乗り心地だけでなく良好な接地性の確保という意味でも厳しい面は少なくない。
持てるパフォーマンスをフルに引き出すためには公道では足りない。だからサーキットへというのがIS Fの考え方であり、それはそれで良いと思う。けれど、ナンバー付きのレーシングカーではないのだから、日常域でも、もう少し気持ち良さを味わわせてくれてもいいのではないだろうか。思い切りトンガッたその方向性は支持したいが「おもてなし」を謳うレクサスならば、もう少し良い落としどころがあるような気がしてしまうのだ。