研ぎ済まされた機械を動かす感覚のGT-R
物事に色々な尺度があることは承知していても、日産GT-Rの車両価格がM3より安いというのは、やはりどうにも違和感が拭えない。何しろGT-Rはエンジンばかりでなく他の部分も含めたほぼすべての部分が、このクルマだけのためにイチから生み出された、正真正銘の新型車なのだから。
そういうクルマだけに、語るべき部分は山ほどある。しかし、そういうクルマだからこそ、部分部分を取り出して語ることは、あまり意味を持たないのではという気もする。V型6気筒3.8Lツインターボというパワーユニットは、480psという最高出力をもっとも効率良く生み出すべく導かれた解なのだろう。トランスアクスル4WDレイアウトも、その強大なパワーをいかに効率良くトラクションに繋げるかという命題から突き詰められたもののはずだし、サスペンションもボディ構造も空力特性も、果てはランフラットタイヤという選択さえも、すべてが速さという目的のためのひとつの要素に過ぎない。やはりこれはすべてが結びついたGT-Rという1台のクルマとして評価してこそ意味も価値もある。そんな風に思えてならないのだ。
GT-Rのそうした成り立ちをして、驚異的な絶対性能の一方で、操る歓びや味わいが欠けていると評する声もある。確かに、それは僕自身も感じたことではあるのだが、今回ようやく一般道でそれなりの距離を乗ることができて、もしかしてそうでもないかもしれないという思いがもたげてきている。
確かにGT-Rは、多くの人が比較的容易に圧倒的な速さを手に入れることのできるクルマである。しかし、その真のポテンシャルを引き出すことまで誰にでもオープンなのかと言えば、それは否だ。他より速くというだけでなくその境地まで辿り着くには、技も工夫も求められる。それまで培ってきた自分なりのドライビングを白紙に戻して対峙しなければならない場面もありそうだ。そこには、間違いなく知的な面白さがある。公道を普通に走っているだけでもそうした要素は十分に感じられて、もしかすると非常に奥が深いのではと思わされたのだ。
また、単純に研ぎ澄まされた機械を動かす気持ち良さも感じられる。余計な味が付加されていないだけに、本質にダイレクトに切り込むことができるのも確かだ。僕自身、GT-Rに関しては正直なところ、まだ掴み切れていない部分も多いのだが、この辺りのことについては、しっかり確かめておかなければと思っているところである。