2007年9月、BMW M3クーぺが日本に上陸した。そしてそれを待っていたかのように、レクサスIS F、日産GT-Rが登場し、ハイパフォーマンスカーの市場が大きな注目を集めた。このセグメントでは絶対的存在のM3クーぺだったが、そのダイナミクス性能はどうようなレベルにあったのか。新たにライバルとして浮上してきた335iも加えて、あらためて比較試乗を行っている。ここではその模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年5月号より)
M3クーペにも見劣りしない335iの刺激的な走り
こんな濃厚な3台と一緒に持って行ったら見劣りするかもしれない。そう思わないでもなかったBMW 335iだが、結局のところ、これはこれで想像以上に愉しむことができた。あるいは、それは空いたワインディングロードばかりでなく、街中を多く含む一般道での試乗となった影響も小さくないのかもしれないけれど。
というのも、最近のBMWは、こうした日常域に於ける走りの刺激性を非常に重視しているからだ。直列6気筒3Lツインターボユニットは、回転域を問わずアクセル操作に対して極めて鋭く反応し、またそのシャシも、やはり操舵と同時に車体が積極的に向きを変えていく。まるで自分の意思を先読みしてくれたかのようなその反応は、まさに刺激的だ。
しかし一方で、いわゆるタメや余韻がないことから、にじむ出るような味わいは薄いという見方もできる。例えるならば、バンド演奏のグルーブ感とデジタル音楽の違いと言えば、わかりやすいかもしれない。実は、それこそM3クーペと335iクーぺの最大の違いではないかと思う。
最近のBMWがこうした方向性を強力に推し進めているのに対して、Mモデルはそうした演出を一切排除して、人間のリズム感により近いグルーブにドライバーを呼び込んでくれる。突き詰めていくほどにクルマと人間の意思が通じ合いひとつになっていくMモデルに対して、乗り込んだ最初の瞬間から、打てば響くとはまさにこのことと言いたくなる刺激をもたらすのが素のBMW。
個人的にどちらが好き嫌いという話はあるだろうが、これは優劣ではなく、それぞれがそれぞれの存在をベースに、敢えて方向性を際立たせたクルマづくりを行っているに違いないのである。