モデルごとのコンセプトに必要とされるのは高い構築力
そんなTSIトレンドラインから最大18ps増しを表示するTSIコンフォートラインに乗り換える。アクセルペダルを半分ほど踏み込むことさえまず稀という日常のシーンでは、即座にその出力差を実感できるというわけではない。
理屈からすれば、低回転域を機械式のスーパーチャージャーによる過給がサポートするこちらの方が、発進の瞬間からリニアで力強いトルク感を得られるといえそうだが、そんな領域を巧みにカバーしてくれるのが、TSIトレンドラインの新しい7速DSGでもあるという印象も受ける。
一方で、高回転にかけてのエンジン回転の伸び感は、TSIコンフォートラインが明確にリード。シングルターボながら低回転域からの素早く有効なブースト圧の立ち上がりを狙ったTSIトレンドラインの心臓は、実際に極めて優れた低速性能は実現したものの、すでに5500rpm付近から明確なエンジン回転の頭打ち感を示す。
すなわち、多少なりとも動力性能にスポーツ性を求めたいという場合、TSIトレンドラインのエンジンは、フィーリング面で不満を感じさせる可能性を否定できない。TSIコンフォートラインの存在意義は、どうやらこのあたりにありそうだ。ちなみにクルーズコントロールやアルミホイールの有無、シートデザインの違いなどの軽い装備差が与えられた両者の価格差は、41万円と意外に大きい。
そこから、さらに23万円高となる170psを発するGT TSIへと乗り換えると、実は前2車ではあまり気にならなかったスタート時のスナッチ(ぎくしゃく挙動)が少々目立つ。
テスト車両が、3台中で最も多い1.6万kmという走行距離を後にしていたこととあるいは関係があるのか、クリープ現象状態から加速をしようとアクセルペダルを踏み加えると、スーパーチャージャーが過給を開始する際にちょっとばかりのトルクの段差感も確認され、さらにその後のアクセル操作に対する加速力のリニアリティも、前2車よりはやや低いという印象だ。
ただし、全力加速シーンではなるほど3車中で最もシャープな加速感を味わわせてくれるし、よりファットで薄いシューズにスポーツサスペンションという足まわりの組み合わせは、当然ながら最も素早いコーナリングスピードを可能としてくれている。
こうして、もはやエンジン排気量ではなく、そのチューニングや組み合わせるトランスミッションの違いで各モデルのキャラクターづくりをしていこうというのが、どうやら最新のゴルフで見られる同社の戦略。常にカテゴリーの先駆者であり続けたゴルフが打ち出したこうしたやり方を、今後ライバルたちがどのように受け止めて行くのか? Cセグメントの世界は、いよいよ面白いことになってきたと思う。(文:河村康彦/Motor Magazine 2008年8月号より)
フォルクスワーゲン ゴルフ TSIトレンドライン 主要諸元
●全長×全幅×全高:4205×1760×1520mm
●ホイールベース:2575mm
●車両重量:1390kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1389cc
●最高出力:122ps/5000rpm
●最大トルク:200Nm/1500-4000rpm
●駆動方式:FF
●トランスミッション:7速DCT(DSG)
●車両価格:248万円
フォルクスワーゲン ゴルフ TSIコンフォートライン 主要諸元
●全長×全幅×全高:4205×1760×1520mm
●ホイールベース:2575mm
●車両重量:1310kg
●エンジン:直4DOHCターボ+スーパーチャージャー
●排気量:1389cc
●最高出力:140ps/5600rpm
●最大トルク:220Nm/1500-4000rpm
●駆動方式:FF
●トランスミッション:6速DCT(DSG)
●車両価格:289万円
フォルクスワーゲン ゴルフ GT TSI 主要諸元
●全長×全幅×全高:4205×1760×1500mm
●ホイールベース:2575mm
●車両重量:1410kg
●エンジン:直4DOHCターボ+スーパーチャージャー
●排気量:1389cc
●最高出力:170ps/6000rpm
●最大トルク:240Nm/1500-4750rpm
●駆動方式:FF
●トランスミッション:6速DCT(DSG)
●車両価格:312万円