2008年、ポルシェ911カレラに続いて、カレラ4がマイナーチェンジされた。ポイントはPDKデュアルクラッチ式ギアボックスの採用と水平対向エンジンの直噴化に加え、PTM電子制御式フルタイム4WDシステムを搭載したこと。マイナーチェンジとは思えないほどの大幅な進化が注目を集めた。そして、ドイツ・ベルリンで行われた国際試乗会では、クローズドコースで限界テストも試すことができた。今回はその国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年10月号より)

期待していた以上だった7速PDKの完成度

最初にキーを掴んだのはカレラ4のPDK。興味津々だったその3.6Lユニットの感触は、結論から言えば期待を100%満たすものだった。低速域からトルクは十分以上。4000rpm手前から音色が変化しはじめ、そのまま7400rpmからのレッドゾーンまで、迫力のサウンドを増幅させながら一気に到達する特性には快感が漲る。サウンドのせいもあるのか、GT3のM64型ほどではないものの、現行ユニットより剛性感に満ちた、あるいは引き締まった感触が心地良い。不満と言えば、低速域ではやや静か過ぎるかもしれないということぐらいだ。

PDKの完成度も期待以上だった。走り出しの瞬間から矢継ぎ早のシフトアップ、あるいはそこからマニュアル変速しようとも、不快なショックがまるで出ない。このマナーの良さには溜息が出てしまった。

ギアはMTより1段多い7速。この7速にはDレンジで77km/hあたりでエンゲージされる。7速100km/hでのエンジン回転数は約1700rpm。これが燃費改善に大きく貢献していることは間違いない。

まさに完璧と言いたい、このPDKだが、唯一その操作ロジックには最後まで納得できなかった。ステアリングのスポーク部分左右に設けられたスイッチは、手前側から押すとシフトアップ、奥から手前に引くとシフトダウンが行われる。問題が起きるのはとくにシフトアップで、一般的なパドルシフト装着車の感覚で右側スイッチの裏側を叩くと、思いとは裏腹にシフトダウンされてしまう。これは一般的な感覚にそぐわないと言わざるを得ない。

エンジニアは「ティプトロニックのユーザーに違和感を起こさせないため」と説明するが、アップ/ダウンをスイッチの上下で行うティプトロニックとの親和性は、そこにはない。ポルシェには、フロアセレクターの前後方向含めてスポーツカーの標準を考慮してほしいところ。もし将来GT3にPDKが組み合わされても、セレクターがこの配列だったら、サーキット派のユーザーからは絶対に許容されないはずである。

さらにもう一点。現行モデルから踏襲するMT用より明らかに太いステアリングのリムも気になった。これについては997シリーズ開発担当のアウグスト・アハライトナー氏曰く、本当は自分も細めが好きだが、マーケティングが要求したと正直に告白してくれた。気分は複雑だ。

続いてはカレラ4Sのスポーツクロノパッケージプラス装着車に乗り込んだ。なるほど、こちらは中速域以降で炸裂する金属質のサウンドといいアクセルのツキといいトップエンドの伸びといい、わざわざカレラ用とは違う超ショートストローク版を用意した意味を十分に感じさせる。現行カレラSのやや演出めいたフィーリングに対して、素性の良さがにじみ出た心地良さ、とでも言えるだろうか。一方、パワー感には40psもの差は正直感じられなかった。

予算を考えずにどちらを選ぶかと言われたら、カレラ4Sにするだろう。けれどカレラでも十分に満足できそうだなというのが今のところの筆者なりの結論だ。

そうやって色々試しているうちに到着したテストコースでは、ポルシェドライビングレッスンのインストラクターによる指導付きで、新しいカレラ4シリーズのパフォーマンスを味わい尽くすことができた。

まず肩ならしは、ウエット低ミュー路でのパイロンスラロームと、低ミュー路面のミニコースでの先導走行。ここで実感したのは、ターンインが非常に素直なことと、相当深いアングルがつくまで姿勢を崩しても安定性がキープされるということである。

PTMは、従来の回転数感応型であるビスカスカップリングに代えて電子制御式の電磁多板クラッチを用いることで、走行状況に応じた最適な前後トルク配分を可能にする。ターンインの軽快さは、まさにその恩恵だろう。

PTMは車両がコーナリングに入ろうとしていることを察知すると前輪へ向かうトルクを減らして、旋回モーメントをつくり出すのを容易にしているのだ。一方、立ち上がりでは後輪の限界が近づくと、PSMで抑えるより先に、トルクを前輪側に多く配分することで姿勢を安定方向に導く。ここまでは従来のビスカス式と同じだが、PTMでは前で引っ張ることでヨーを打ち消してしまうのではなく、姿勢を安定させつつも、あくまで後輪主体でアクセルで曲げていくような動きをつくり出すことができる。

つまり進入では911らしからぬ軽快感を、立ち上がりでは911らしい後輪主体の蹴り出し感を満喫できるということ。おかげで、そこに「乗せられている」感覚が皆無なのが、その真骨頂と言えるだろう。

画像: PDKのカットモデル。このトランスミッションの特徴は、ティプトロニックS比約10kgの軽量化実現と、燃費向上を意図した早期のシフトアッププログラムにある。

PDKのカットモデル。このトランスミッションの特徴は、ティプトロニックS比約10kgの軽量化実現と、燃費向上を意図した早期のシフトアッププログラムにある。

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