俊敏性とスタビリティを両立させたカレラ4
続いて試したローンチコントロールは、PDKとスポーツクロノパッケージプラスを選択した場合にのみ設定される。使い方は簡単。停止状態で「スポーツプラス」スイッチを押し、左足でブレーキを踏みつつ右足でアクセルペダルを素早く踏み込めば、エンジン回転数が6500rpmに固定され、あとはブレーキをリリースするだけ。カレラ4のそれは、走り出す前に4WDを直結状態とし、それを45km/hまで維持するようプログラムされており、実際スタートでは、ほんの一瞬の静寂のあと、まさに弾かれたような勢いで猛然でダッシュを披露する。これによって0→100km/h加速タイムは0.2秒短縮されるという。
驚くべきは、ローンチコントロールで発進し、250km/hまで加速してフルブレーキングというここでのテストメニューを、カレラ4は何回も平然と繰り返してみせたことだ。この手のローンチコントロールはクラッチを傷めるため何度も試せないのが一般的。しかしPDKに、そんな常識は通用しないのである。
そして最後はサーキット仕立てのロングコースを、やはり先導付きで走行した。先導付きと言っても、決してヌルいものではない。良好な舗装とは言えないコースを掛け値なしの全開で飛ばしていくため、ついて行くだけでも大変。PSMのランプも常時点滅しっ放しとなるほどだ。
攻め込んで改めてわかるのは、たとえばアンダーステアの小ささである。PTMはターンインで向きを変えやすいよう前輪の駆動力を制限しているというのは先に記した通りだが、それでもなおオーバースピードだった場合も、アクセルオフで前輪のグリップを回復するまでの時間がとても短い。
立ち上がりでのリアから押し出すような強烈なトラクションも、やはり鮮烈だ。実は、これはPTMだけの効果ではない。カレラ4シリーズは、全車リアに加速側22%/減速側27%というロック率設定の機械式LSDが標準装備されているのである。しかもカレラシリーズとはサスペンションの設定も異なっていて、トータルで見た場合、カレラ4の方が、味つけはニュートラルステアに近いものとなっているという。
つまり、さらなる俊敏性とスタビリティを両立させているのが、新しいカレラ4シリーズということ。実際、ニュルブルクリンクのオールドコースでのラップタイムは2秒ほどカレラ4の方が速いのだそうだ。
また、ここではPDKに組み合わされたスポーツクロノパッケージの真価にも触れることができた。そのサーキットシフトプログラムは、PDKのレスポンスと変速時間を最速化し、減速時のブリッピングまで自動的に行うのだが、これがまさに絶妙で、完全にクルマ任せの変速で、何ひとつ不満を感じさせることがなかったのだ。ティプトロニックも変速ロジックは並のATとはまるで別物だったが、PDKは変速時間の速さとダイレクト感で、いよいよそれを際立って感じさせるのである。
正直、今回の試乗会がこれほどまでに「走れる」場になるとは思いもしなかった。しかも、新型カレラ4シリーズは、そんなハードな走行の後も涼しい顔をして、ホテルまでの帰路のドライブを楽しませてくれたのだ。いい悪いという話ではないが、日本の自称スーパーカーとのクルマ観の違いは、果てしなく大きい。
911と言えばリアエンジン・リアドライブ。そんなイメージは、実際には過去のものとなりつつある。もはや911シリーズの販売の50%以上は、カレラ4をはじめとする4WDモデルで占められているのだ。筆者としても、911は後輪駆動じゃなければという気持ちは依然強いものの、ここまでの完成度を見せつけられると気持ちは大いに揺れる。
同様に、短時間だが試すことのできたカレラ4SのMT仕様も、PDK以上にクルマと人間との距離が近く感じられる素晴らしいドライビングプレジャーを味わわせてくれただけに、やはり簡単には選択肢から外せないというのが率直なところだ。
毎度のことだが、こんな風にポルシェはユーザーを嬉しい悩みへと引きずり込む。まさに筆者のように、すぐに買える目処などなかったにしても。それでも、取りあえず間違いないのは、この新型カレラ4シリーズが、それを選んだユーザーに、これまで以上の満足感をもたらすだろうということである。(文:島下泰久)