高速クルージングでこそRS6は本領を発揮する
RS6アバントへと乗り込み、スパルタンというよりはむしろゴージャスという形容詞が相応しく感じられるバケットシートへと収まる。
いつも感心するのはアウディ各車のインテリアの仕立ての素晴らしさ。レザーやアルミニウム、さらにはカーボンファイバーをふんだんに用いて仕上げられたこのモデルのそれも、もちろん文句ナシの質感をアピールする。
スタート準備が整いエンジンに火を入れた段階で再度認識させられるのは、RS6アバントがやはり単に高価でゴージャスなだけのステーションワゴンではないということ。重低音に包まれ、迫力あるサウンドとともに高周波の微振動が伝わると、まるでRS6アバントがその秘めたパフォーマンスを武者震いで表現しているかのようでもある。
迫力のサウンドは続くものの、アクセルペダルを浅く踏み込む限りではその加速感はあくまでもジェントルな印象に終始する。路面凹凸や継ぎ目を拾うたびに20インチという巨大なシューズが動くばね下荷重の大きさは意識させられるが、それを除けばフットワークのテイストが予想より遥かにしなやかなのも、そうしたジェントルさを加速する。
今回のテスト車両はオプションの3ステージダンパーを装着していたが、最もソフトな「コンフォート」では一見のしなやかさは増すものの、ボディの無駄な動きが目立つようになるため街乗りシーンでもあまり快適とは思えなかった。個人的には中間の「ダイナミック」がベストポジション。一方で、快適なフットワークに対するパワーステアリングの味付けがなんとも人工的だったのは残念。40km/h程度までの軽さと50km/h以上での反力の強さの間に大きな「壁感」が存在する。交差点を軽い操舵力で曲がった直後に突然グンと反力が強くなるなど、連続性に欠けるその制御には強い違和感を覚えざるを得なかった。
こうして、街乗りのシーンではまだ「爪」を隠し続けたRS6アバントも、前方が開けてアクセルペダルを深く踏み込んだ瞬間に、本来秘めたポテンシャルを解放し始める。
エンジン回転の高まりとともに強大なパワーを感じるのは半ば当然。一方で「高いギアをキープしたままに想像以上の加速が効く」というのが、このモデルならではのダイナミックさだ。
例えば、高速道路をクルージング中も、アクセルペダルを軽く踏み加えると6速ギアのままにどんどん加速力が高まって行く。ツインターボが威力を発揮し、まるでキックダウンしたのと同様な強力加速を低いエンジン回転数のままに得ることができるのだ。
クローズドサーキットへと持ち込み、その持てる力をフルに引き出してやると、RS6アバントの大柄なボディは2.2トンに近いという重量を忘却の彼方へと押しやる怒涛の加速力で、速度を際限なく増して行く。こうしたちょっと異次元感覚の動力性能のキャラクターを知ってしまうと、日本に速度無制限のアウトバーンが存在しないのが改めて残念にも思える。
RS6アバントのコーナリング能力はロードカーとしては十分に高い。ファットなタイヤ(試乗車はピレリPゼロ)が生み出すコーナリングフォースを限界まで使ったアップテンポな走りでは、決して車両側の限界からではなく、同乗のパッセンジャーやラゲッジスペースに積み込んだ荷物が先にギブアップの声を挙げるに違いない。
けれども、そうした限界性能はまた別として、RS6アバントのコーナリングはなんとも重々しく、軽快感に欠ける。前述のように車両重量が2トンを遥かに超えるため、ある面それは当然でもありそうだが、1.3トン近くが集中し、1輪当たりでは軽く600kg以上を「担当」しなければならない前輪負荷の大きさが、そうしたコーナリング時のフィーリングにも大きな影響を及ぼしていると考えられる。
RS6アバントでのハードコーナリングでは、「外側前輪がその負担の大きさに負けて早期に悲鳴を上げる」という感覚がとても強い。サーキットスピードでの走行中に常に気にかけておかなければならないのは外側前輪グリップの限界だし、そしてそうした傾向は走行後のタイヤの磨耗状態をチェックしても納得できるものだった。
加えれば、当初は強力な制動力を発揮してくれたブレーキも、サーキット走行では完全無欠というわけではない。コースレイアウトにもよるが、やはりフェードの兆候は明白。2.2トン級の物体を瞬時に減速させるエネルギーは、軽くエンジン出力の数倍が必要となるのである。
ところで、RS6アバントほどに強烈ではなくても、昨今は強力な心臓を当たり前のように搭載した「スーパーワゴン」はさほど珍しい存在ではなくなりつつある。