世代を重ねるたびに、目を見張るような進化を遂げるフェラーリのマシンたち。今回テストしたV8ミッドシップの系譜も、先代488から一足飛びの進化を感じさせる。ましてやオープンスタイルのスパイダーだからこそ、絶妙にグレードアップされたさまざまな魅力の「伸びしろ」が、ひときわはっきりと伝わってくるような気がした。(Motor Magazine2021年3月号より)

明確な接地感が生む安心感をウエットサーキットで実感

F8トリブートの国際試乗会はフェラーリ本社にあるフィオラノサーキットで始まったのだが、このときはあいにくの雨模様。いつもであれば、フェラーリ ミッドシップをウエットコンディションで走らせるのは気が重い仕事だが、このときはなんの不安を抱くこともなく、思い切ってコーナーを攻めることができた。

その理由は、ステアリングホイールを通じてフロントタイヤの接地感が明確に伝わってくることに加え、操舵力が適度に重く、しかも操舵量と実際にコーナリングする量の関係が一定していて予想しやすいことにあった。そのうえ、フェラーリの最近の傾向でコーナリング時にはフロントが適度にロールするように調教されていて、これが強い安心感をもたらす一因となっていた。

それでいながらステアリングホイールを切れば即座にフロントが反応するレスポンスの鋭さも備えているし、これをしっかりと支えてくれるリアのスタビリティも巌のようで申し分ない。これほど安心感が強く、またコントロール性が優れたフェラーリ ミッドシップを操るのは、私にとって初めてだった。

前作488からを上乗せして720psを発生するV8エンジンは、低速域でも分厚いトルクをふんだんに生み出し、3.9Lという実際の排気量以上の力強さを味わえる。感覚的には5L以上の自然吸気エンジンのようなトルク感である。

しかも、回転数が4000rpmを越えるとエンジン音はフェラーリらしい軽く乾いた連続音に近づいていく。ミッドシップは、本来フロントエンジンに比べて排気系の取り回しに制約が大きく、とくにターボエンジンではエキゾーストノートのチューニングに困難が伴うはずだが、F8に乗ると「ついにここまできたか」という感慨を持たざるを得ない。まさに、フェラーリ ミッドシップの究極の姿といっていい。

さて、F8に続く次世代モデルではどのようなテイストで我々を楽しませてくれるのか? それがどんなテクノロジーを用いていようとも、フェラーリの神格性にいささかの揺るぎもないことは疑う余地がないだろう。(文:大谷達也/写真:井上雅行)

画像: クランクシャフト、チタン製コンロッドなどフリクション低減をメインに熟成、数値向上とともにフィーリングも磨かれた。

クランクシャフト、チタン製コンロッドなどフリクション低減をメインに熟成、数値向上とともにフィーリングも磨かれた。

フェラーリF8スパイダー主要諸元

●全長×全幅×全高:4611×1979×1206mm
●ホイールベース:2650mm
●車両重量:1400kg
●エンジン:V8DOHCツインターボ
●総排気量:3902cc
●最高出力:530kW(720ps)/8000rpm
●最大トルク:770Nm/3250rpm
●トランスミッション:7速DCT
●駆動方式:MR
●燃料・タンク容量:プレミアム・78L
●EU準拠燃費:7.7km/L
●タイヤサイズ:前245/35R20、後305/30R20
●車両価格(税込):3657万円

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