2009年、Motor Magazine誌は当時大きな注目を集めつつあったBMWの4WDシステム「xDrive」に注目し、その実力をテストする特別企画を組んでいる。FRのイメージが強いBMWだが、実は4WDモデルを数多く揃えていた。なぜ4WDが増えているのか、4WDは本当に雪道に強いのか、BMWのxDriveはほかとどう違うのか。ここではその興味深い企画を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2009年3月号より)

後輪の空転を感知すると前輪にトルクを100%伝達

この安定性と走りは、325i xDriveもX3 xDrive30iも基本的には同じであるが、雪道では325i xDrive のしっかりした走り味が印象的だった。コーナリング中にアクセルペダルをラフに扱っても危ないことにはならないところが、失敗しても大丈夫という安心感をもたらすのだろう。低いギアにして急にアクセルペダルを踏んだ場合でも、フロントが逃げるのではなく、最初はリアが滑りそうになることが運転を楽しくしている。

X3は、直進時にハンドルのニュートラル付近の手応えが軽めで反応がやや鈍く感じられたが、切り始めてしまえば何の問題もなかった。これは車高が高く、重心が高いX3にあわせて、安定性を確保するためのチューニングなのかもしれない。

走行中カーブに差しかかったときには、アクセルペダルを戻しブレーキングしてハンドルを切るが、このとき前輪へのトルク配分がゼロになるのもBMWの4WDシステムの大きな特徴である。クルマが曲がり始めたところでアクセルペダルを踏み込むとすぐに前輪にもトルクが配分され、高い安定性を保ちつつ駆動力を高め加速していくことになる。

滑りやすい雪やアイスバーンで発進するとき、トルク配分が大きい後輪が先にグリップ限界を越えて空転を始めると、湿式多板クラッチが素早く圧着し前輪にトルク配分する。このように後輪がまったくグリップしない状態でも前輪にはエンジンが発生する100%のトルクが伝わるからトラクションを確保できるのだ。極端な言い方をすると、BMWのxDriveは前輪は0%〜100%まで、後輪も同様のトルク配分ができるということだ。

画像: X3 xDrive30i。車高が高く、重心が高いX3にあわせて、325i xDriveと比べると安定性を確保するチューニングが施されていた。

X3 xDrive30i。車高が高く、重心が高いX3にあわせて、325i xDriveと比べると安定性を確保するチューニングが施されていた。

今回も、スキー場の上段にある駐車場に向かうスロープで一度止まってから発進するというような場面に遭遇したが、普通のアクセルペダルの踏み方ではタイヤが空転する気配もなく発進することができた。いきなりアクセル全開にすると少し空転する気配を感じるが、そう思ったと同時にDSCが作動し、すばやく空転を止めトラクションを確保し、安定性を保ったまま発進していった。

実はこのスロープはとても滑りやすかった。反対向きに下ってきて途中で止まろうとしたら、スピードが落ちてABSが作動を終わる4km/h以下になったときに、タイヤは4輪がロックしたままズルズルと滑っていった。

道がカーブしていたのでこのままではカーブの外側の雪壁にぶつかる。すぐにブレーキペダルを緩めてハンドルを利かせるようにしてカーブをうまく曲がっていったが、それほどの滑りやすい路面でもフルタイム4WDとDSCの作動によって、ただアクセルペダルを踏むだけで坂道を発進できるのである。

以前のBMWの4WDはプラネタリーギアを使った前後38対62というトルク配分だった。しかしこれは前後の回転数を同じにするためにセンターデフをロックするところまでしかコントロールできなかった。しかし、湿式多板クラッチをコンピュータ制御することにより、より幅広いコントロールが可能になったのだ。

さらにこの4WD制御と協調するようにDSCの制御も加わり、発進能力を高めるだけでなく、曲がる能力を低下させる恐れがあるフルタイム4WDの弱点を出さない制御ができるようになったのだ。このように進化したフルタイム4WDをBMWはxDriveと呼ぶようになったが、5シリーズだけは530xiツーリングというネーミングのままだ。

画像: 325i xDrive。雪道でのしっかりした走り味が印象的だった。

325i xDrive。雪道でのしっかりした走り味が印象的だった。

推奨スタッドレスタイヤはBMWの要求基準をクリア

冬季にxDriveが有利なのは、滑りやすい雪道、アイスバーンだけではない。スタッドレスタイヤを履いたことによるドライ路面でのグリップのマイナス面をxDriveが補うことができることにある。

日本の冬タイヤであるスタッドレスタイヤは、ドイツ本国のウインタータイヤとは別のものだ。ドイツのウインタータイヤはアウトバーンも安定して走れるドライ路面でのグリップ力を持っている。冬のアウトバーンを、ウインタータイヤを履いた1シリーズで200km/hオーバーで走った経験があるが、何の不安もなく走れたのを覚えている。

日本のスタッドレスタイヤは、日本の滑りやすいアイスバーンでも走れるように、特別なトレッドコンパウンドと特別なトレッドパターンになっているため、ドライ路面の性能ではドイツのウインタータイヤには適わない。

そんなスタッドレスタイヤを履いたときに高速道路を走ることもあるだろう。そのときドライ路面のグリップが落ちたタイヤでも安定性を低下させないためにxDriveは有効に働く。

スタッドレスタイヤとして、X3にはミシュランX-ICE XI2、3シリーズはブリヂストンのブリザックRFTが日本の推奨タイヤになっている。これはBMWジャパンのエンジニアリング部門のテストにパスしたものだ。BMWジャパンが推奨しているスタッドレスタイヤは、ホームページにもコンプリートセットとして掲載されている。

ミシュランX-ICE XI2のスピードレンジはTだから190km/hまで保証される。これまでのX-ICEのQ(160km/h)よりは高くなっているが、BMW指定のM+SタイヤのH(210km/h)やV(240km/h)よりは低い。それでも日本の高速道路をハイペースで走ったときでもグリップのしっかり感が保たれ、安定感をキープしていた。

ブリザックRFTを履いた325i xDriveは、高速道路でスピードが高くなっていくとやや応答遅れのような動きが出てくるが、xDriveはそれが不安定な動きにならないように抑えてくれている。

BMWのxDriveは、単に滑りやすい路面を走破するとか、より高い安定性を保つためだけのシステムではない。FRと同じように駆けぬける歓びを感じられるようプログラムされているから、これもBMWだということを実感できるクルマだ。(文:こもだきよし/写真:原田 淳)

BMW 325i xDrive 主要諸元

●全長×全幅×全高:4540×1815×1440mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1620kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:2496cc
●最高出力:160kW(218ps)/6500rpm
●最大トルク:250Nm/2750-4250rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・60L
●10・15モード燃費:9.3km/L
●タイヤサイズ:225/50R16
●車両価格:565万円(2009年当時)

BMW X3 xDrive30i 主要諸元

●全長×全幅×全高:4585×1855×1675mm
●ホイールベース:2795mm
●車両重量:1830kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:2996cc
●最高出力:200kW(272ps)/6550rpm
●最大トルク:315Nm/2750rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・67L
●10・15モード燃費:8.4km/L
●タイヤサイズ:235/50R18
●車両価格:645万円(2009年当時)

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