高性能車のサスペンションの証がダブルウイッシュボーン式
独立サスペンションの中でも、もっとも高性能なイメージがあるのがダブルウイッシュボーン式だ。フォーミュラカーを始めとしたレーシングカーでも、当たり前のようにこの形式が用いられている。それだけ、スポーティな走行に適しているサスペンションといえ、昭和車のなかでもスポーツカーに主に用いられてきた。
![画像: 「きちんと知りたい!自動車サスペンションの基礎知識(飯嶋洋治 著/日刊工業新聞社)」より転載](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783018/rc/2021/08/21/e7baffcff502fc5ef05a15781b2507c33f58b6ea_xlarge.jpg)
「きちんと知りたい!自動車サスペンションの基礎知識(飯嶋洋治 著/日刊工業新聞社)」より転載
基本的な構成はボディ側上下にAアーム(アッパーアーム&ロワアーム/形状がアルファベットの「A」に似ていることからこう呼ばれる)を取り付ける。タイヤ側はハブナックルの上下にアームをつなげるという形になる。ボディ側のアームの結合点が前後の2点なのに対して、タイヤ側は1点となる。そのためトー角を決めるトーコントロールアーム(リンク)が必要となる。フロントの場合は、それがハブナックルにつながるタイロッドエンドとなり、ステアリング機構を兼ねることができる。
![画像: PF60型いすゞジェミニZZ/Rもフロントにダブルウイッシュボーンサスペンションを採用。当時のスポーティカーの先端を行った。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783018/rc/2021/08/21/e313a5f9f59b572c517565ce9c4ad836314ef18f_xlarge.jpg)
PF60型いすゞジェミニZZ/Rもフロントにダブルウイッシュボーンサスペンションを採用。当時のスポーティカーの先端を行った。
ダブルウイッシュボーン式のメリットは、ボディの上下から強度のあるアームが伸び、ハブナックルの上下を支えるという構成のために、高い剛性を確保できることだ。例えばストラット式の場合、横力によってショックアブソーバーの動きを抑制してしまうこともあるが、ダブルウイッシュボーンは所定の減衰力を発揮できる。
さらにアームの角度や長さを細かく設定して、コーナリング時のタイヤの接地性を高められる。「すべての車種で」というわけではないが、ダブルウイッシュボーンを採用した市販車の多くはアライメントを細かく調整できる方式を採用している。
![画像: ジェミニのフロントサスペンション。上下の剛性の高そうなアームの間にスプリング、アッパーアームの上にショックアブソーバーという構成となっている。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783018/rc/2021/08/21/b79062ab5d28dbc883e95e77639cc5546a9b5833_xlarge.jpg)
ジェミニのフロントサスペンション。上下の剛性の高そうなアームの間にスプリング、アッパーアームの上にショックアブソーバーという構成となっている。
デメリットとして挙げられるのは、ストラット式と比較して部品点数が増えていることによるコスト高だ。また、ある程度アームの長さをとらないとサスペンションジオメトリーの変化が大きくなってしまう。そのため、フロントエンジン車のフロントサスペンションにダブルウイッシュボーンを採用しようとすると、スペースの制限があるということだ。逆に言うとフロントスペースに余裕のあるMR車やRR車は成立させやすい。
もちろんFF車に採用できないこともないが、ハイマウント式ダブルウイッシュボーンのように工夫する必要がある。本来のアッパーアームはサスペンションを跨ぐようにボディ側へ伸びるが、ホンダの一部モデルで採用されるハイマウント式のアームはサスペンションを跨がず上方へ伸びてボディ側に接続される。ただし、ストロークの確保が難しいなどの問題点も残る。(文:Webモーターマガジン編集部 飯嶋洋治)