GTIピレリとゴルフVI GTI、目指す方向性は明確に異なる
フォルクスワーゲン自慢のDSGがクラッチミートを行った瞬間から味わえるオリジナルエンジンに対するトルクの上乗せ感は、アクセルペダルを踏み加えていってもそのまま全域で継続される。5500〜6300rpmという範囲で発揮される230psというピークパワーはもとより、300Nmとオリジナルエンジン比で20Nm増しのピークトルクを発生させる回転数も2200〜5200rpmと幅広い。
チューンドエンジンながら決してピーキーさなど持ち合わせないその出力特性に、「どうしてこれをGTIの標準エンジンにしないのか?」と、むしろそんな疑問さえが湧き出てきそうになるのがこの心臓でもある。
ただし、そんな強心臓をFFレイアウトに組み合わせた結果は時にトラクション能力の不足をもたらし、ドライ路面でさえ駆動輪である前輪を空転させる場面なども発生させている。
ただし、そうした現象を示しつつも嫌なステアリングのスティック感やトルクステア現象をもたらせることがないのは、さすがはゴルフと感心する部分。もっとも、ゴルフVIのGTIがその最高出力を210psに「留めた」のは、そんな「じゃじゃ馬ぶり」を嫌ったことにも一因があるかもしれないが。
一方、回転の上昇と共に高まるパワー感はオリジナルエンジンに比べると明らかに鮮烈で力強く、実際の加速力でもベースのゴルフV GTIに対して1ランク上のシャープさを実感させられる。
ちなみにデータ上は、同じDSG仕様のモデルでゴルフV GTIの0→100km/h加速タイムが6.9秒であるのに対し、GTIピレリは6.6秒という値。ゴルフVI GTIのタイムは6.9秒と発表されているから、こうしたスペックからも「最速のGTI」のタイトルはいまだGTIピレリの頭上に輝いていることは明らかだ。
ところで、ベースとなったGTIに比べて想像以上に大きく異なっていたのは、そんな動力性能面に関してのみではない。手が加えられた部分はタイヤとホイールのみという説明になっているものの、実際にテストドライブを行うと「サスペンションのセッティング自体も異なっているのではないか?」と想像させられるのがフットワークのテイストの違いだった。
端的に述べれば、GTIピレリのフットワークの印象は、ベースであるゴルフVのGTIより明確に「辛口」だ。
走り出した瞬間からロードノイズは喧しく、同時にわずかな路面の凹凸に対してもピョコピョコとしたボディの動きを示すのはベース車にはないワイルドな印象。一方で、そうした乗り味はスポーティなモデルとしてのキャラクターをわかりやすく演じているとも言える。
と同時に、どのようなシーンでもアンダーステアがとことん弱いハンドリングの感覚は、まさに「最もスポーツ心に溢れたゴルフ」の面目躍如。史上最強・最速のゴルフGTIは、最もスパイシーな走りを堪能させてくれるゴルフGTIであるというわけだ。
一方で、新型ゴルフGTIが狙う走りのテイストがそんなスパイシーなものからはある程度の距離を置いたものであろうことは、このモデルが電子制御式の可変減衰力ダンパーを採用するというニュースからも予想がつくもの。昨今、ヨーロッパ車で採用が目立つこの種のデバイスを採り入れたモデルの乗り味が、いずれも際立つしなやかさを備えていることからすれば、ゴルフVIのGTIが実現させるフットワークのテイストはGTIピレリのそれとは明確にベクトルの異なったものであることが予想される。
かくして、今やフォルクスワーゲンラインアップの中でも「ひとつのブランド」としてひとり立ちをしつつあるゴルフGTIというモデルに、よりスパイシーでホットな走り味を求めるのであれば、今からあえてゴルフVのGTIピレリを選ぶという行為は「十分に理屈が通るものである」というのが自分の結論だ。一方で、速さと共に歴代GTI中で最も上質な走りのテイストを求めるというのであれば、これはもはやゴルフVIのGTIで決まりに違いないだろう。(文:河村康彦/写真:村西一海、永元秀和、井上雅行)
フォルクスワーゲン ゴルフ GTI ピレリ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4225×1760×1500mm
●ホイールベース:2575mm
●車両重量:1440kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1984cc
●最高出力:169kW(230ps)/5500-6300rpm
●最大トルク:300Nm/2200-5200rpm
●トランスミッション:6速DCT
●駆動方式:FF
●10・15モード燃費:12.2km/L
●タイヤサイズ:225/40R18
●車両価格:405万円(2009年当時)