ドラマティックな世界が広がるアルファロメオのV6
ジュリア クアドリフォリオのV6ユニットが、穏やかにハミングしている。高速道路での平和な巡航。音量は、そのスペックだけを知る人が耳にしたら、拍子抜けしそうなくらいに物静かだ。音質もややゴロゴロとした感じの低音で、リズミカルではあるけど取り立てて快いわけでもない。期待したほどじゃないな、と思う人もいることだろう。
でも、仮にこの領域にずっと居続けたとしても、僕はニンマリとした気分でいられる。自分のもっとも好きなエンジンのひとつに似たところがあるからだ。
1979年から2007年あたりまでさまざまなアルファロメオに搭載されてきた、通称ブッソーネV6。フェラーリやアルファのレーシングエンジンをも手掛けてきたジュゼッペ・ブッソ氏が最後に設計したV6ユニットの一連のシリーズは、今もって陶酔させられる者が絶えない名作中の名作だ。
僕も信奉者のひとりで、それに肩を並べられる気持ち良さを持つV6は、ディーノやストラトスに積まれたフェラーリの2.4Lぐらいなものだ。3Lの4カム版を積む166という不人気車をたいして乗りもしないのに所有し続けているのは、だからなのだ。
僕の166のV6も、低回転域ではゴロゴロと、そして生まれた時代が時代だから「ここは得意分野じゃないんだ」とばかりにやや不機嫌そうに、それでもリズミカルなサウンドを聴かせてくれる。強引に結びつけるつもりもないけれど、ジュリア クアドリフォリオの2.9L V6ツインターボは、そこが少し似てるのだ。そしてアクセルペダルを深く踏み込んだ瞬間から、素晴らしくドラマティックな世界が広がっていくところも。
あまりの完成度の高さに、フェラーリのエンジニアが怒っていたとか・・・
ただし、アルファロメオの新世代V6ユニットは、低回転域にあってもまったく不機嫌な素振りを見せたりはしない。たとえばアクセルペダルを3mm踏めば、瞬時にその分だけ速度を上乗せしようとする。2500rpmで600Nmのトルクを生むだけあって、巡航領域でも相当に力強い。おかげで扱いやすく、長距離を走っても疲れない。ドライバーにとても従順なのだ。それがたとえ本領発揮の場面ではないにせよ。
ジュリアとステルヴィオのクアドリフォリオにだけ搭載されるこのV6ユニットは、2015年に発表されてから今に至るまで、世界的に高評価を集め続けている稀有な存在だ。デビュー時の本国版のプレスリリースで「フェラーリ出身のエンジニアが調律したとか」フェラーリのテクノロジーにインスパイアされた”といった曖昧な表現で語られ、ボア×ストロークもVバンクの角度も同じであることなどから、フェラーリ カリフォルニアTのV8ツインターボから2気筒分を切り落とした「フェラーリエンジン」と言われることも少なくない。マラネロ信奉は強いのだ。
けれど、フェラーリのエンジニアが「うちのよりいいエンジンを作りやがって」と怒っていた、というジョークもあるくらいだから、おそらくは親戚関係といえるマラネロのV8を基にしつつアルファのV6として新たに設計開発されたもの、というあたりが真相なのかもしれない。フェラーリとマセラティとアルファロメオは、昔から似たようなことを繰り返してきているのだ。