2009年、W221型メルセデス・ベンツSクラスにハイブリッドモデルが追加された。ラグジュアリーサルーンの快適性と環境性能の両立は実現されていたのか、トップモデルに相応しい品質は確保されていたのか。ここではドイツ本国で開催された国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2009年8月号より)

より洗練された洗練性と安定感。さらにマイルドハイブリッドを追加

そんななかで、今回のSクラスから採用が始まった新しい技術もある。まずアクティブボディコントロール(ABC)に追加された横風安定機能だ。これはESPの各センサーの情報をもとにして、横風による姿勢の乱れに対し各輪の負荷を最適に調節するというもの。当然ながらABCを装備するS600などで味わえるシステムとなる。

もうひとつは、Sクラス全車に採用となったトルクベクトリングブレーキ。旋回中の内側後輪にブレーキを掛け積極的にヨーを起こさせるもので、アンダーステアを低減し安全性と俊敏性を同時に向上させる。

今回S600/500を短時間試したなかでは、これらの機構の効果をはっきりと体感するまではいかなかったが、全体的な印象としては、乗り心地がさらに洗練されつつ動きも軽快になっていた。ここに記した以外にもバリアブルレシオのダイレクトステアリングの全車採用など、全体をキメ細かく磨き上げてきたというあたりが、今回のSクラスで実施されたマイナーチェンジの趣旨なのだ。

ところで話しはここで終わらない。今回、Sクラスのみならずメルセデス・ベンツにとって最も大きなニュースとなるモデルがあるのだ。そう、ハイブリッドラインの追加設定である。

画像: S400HYBRIDとプリウスの大きな違いは搭載バッテリーの種類。プリウスがニッケル水素バッテリーなのに対してS400 HYBRIDはリチウムイオンバッテリーを採用。薄型の磁石モーターは3.5L V6エンジンと7Gトロニックトランスミッションの間に搭載されている。

S400HYBRIDとプリウスの大きな違いは搭載バッテリーの種類。プリウスがニッケル水素バッテリーなのに対してS400 HYBRIDはリチウムイオンバッテリーを採用。薄型の磁石モーターは3.5L V6エンジンと7Gトロニックトランスミッションの間に搭載されている。

S400 HYBRIDと呼ばれるそのモデルは、205kW(279ps)の3.5L V6と7Gトロニックの間に、15kWの薄型モーターを挟み込んだ、いわゆるマイルドハイブリッドだ。ちなみにエンジンは連続可変バルブリフトにより膨張比を大きくし熱効率を上げたアトキンソンサイクルで、これはメルセデス・ベンツ初の機構。システムの合計出力は220kW(299ps)、385Nmとなる。

エンジンとモーターの間にクラッチは存在せず、ふたつのパワーソースは常に一緒に回る。エンジンの効率が悪い領域をモーターでアシストし、減速時にはモーターがジェネレーターとなってエネルギーを電気的に回収して再利用に備え、さらにアイドルストップ&スタートを行うことで効率を上げるのがマイルドハイブリッドの基本的な考え方だ。

これ自体はホンダインサイトなどで日本人にはお馴染みだが、S400 HYBRIDの大きな特徴となっているのは、二次電池にエネルギー密度の高いリチウムイオンを量産ハイブリッドとして世界で初めて採用していること。そのバッテリーモジュールは、エンジンルームの右側にあるツインバルクヘッドの間に置かれるほどコンパクトで、Sクラス本来のパッケージングにまったく影響を及ぼしていない。

今まで経験したことのない激しい電気の出し入れ

さて、そのドライブフィールだが、これは限りなくエンジンカーに近い。システムの作動状況は、メーター内のマルチファンクションディスプレイやナビ画面で確認できるが、加速時のモーターによるパワーアシストはかなり軽め。まあ、モーターの出力が限られるから当然だが、中速域で不思議にスルスルっと出足が伸びる瞬間に「ああハイブリッドだ」と確認できる程度だ。

画像: W221型メルセデス・ベンツSクラスは2009年モデルで初のマイナーチェンジを受けることとなった。その中で最も大きなニュースがS400 HYBRIDと呼ばれるハイブリッドモデルの登場だった。

W221型メルセデス・ベンツSクラスは2009年モデルで初のマイナーチェンジを受けることとなった。その中で最も大きなニュースがS400 HYBRIDと呼ばれるハイブリッドモデルの登場だった。

しかもアシスト時間も短い。作条件は120km/h以下、最大持続時間も5秒までに設定しているという。つまりアウトバーンで床までアクセルを踏み続けているような状況ではS400 HYBRIDはまったくのエンジンカーなのである。

しかし、もちろんそれは悪いことではない。ハイブリッド化の目的はエネルギー効率の向上で、事実このクルマは7.9L/100km(12.6km/L)の燃費と、CO2排出量186g/kmを実現している。ちなみにレクサスLS600hの欧州仕様は9.3L/100km(10.8km/L)、219g/kmだ。

試乗中にオンボードで確認したところ、高速の区間燃費は11.8L/100km(9.1km/L)。トータルでは13.2L/100km(8.4km/L)となったが、このクラスの大型サルーンで、しかも様々な走行モードを試しつつの結果としては立派な数値と言って良いはずである。ちなみに同じルートを走ったS500は6.6km/Lだった。

This article is a sponsored article by
''.