BEVのプレミアム性とハイエンドの高い親和性
ヨーロッパの自動車メーカーが今、急速なBEVシフトに向かっていることについては改めて説明する必要はないだろう。「いつまでに」「どれぐらい」に多少の違いこそあれ、すべてのメーカー、ブランドがそう公約している。
その一番の目的が、カーボンニュートラルの実現であることは間違いない。しかし、それだけを理由と考えるのはおそらく間違いである。彼らはBEVシフトの先に何を見据えているのだろうか。
生産、販売するモデルを最終的にすべてBEVに置き換えていくという宣言が早かったのは、ハイエンド&プレミアムメーカーである。ベントレーは2020年11月に発表した事業戦略「ビヨンド100」で、26年までにラインナップをPHEVとBEVに切り替え、30年にはBEVだけにすると発表した。排気量6LのW12ガソリンツインターボエンジンを頂点に戴くブランドが、10年間で完全BEVに移行するというのだ。
ボルボも21年3月に、30年までにすべてのボルボ車をBEVにすると発表した。25年までに生産モデルの50%をBEV、残りをPHEVとして、さらにそこから5年で完全BEV化するというシナリオである。
同じような発表がジャガー、アウディ、さらにはメルセデスベンツなどからも続いた。いずれも30年にはBEVのみをラインナップするという点は、ほぼ一緒だ。ただし、少なくともアウディの場合は「中国は除く」と付く。
BEVなら圧倒的な高性能を、圧倒的にスムーズかつ快適に実現できる
極端な動きに出たのがロールスロイスだ。21年9月末にブランド初のBEVとして23年の第4四半期に発売するスペクターをチラ見せしたが、今後はPHEVを通り越して、ガソリンV12エンジンからいきなりBEVへと移行しようとしているのである。
「私たちの顧客は中途半端なものは求めていません。BEVシフトにより私たちは究極のラグジュアリーカーを提供できます」
新型ゴーストの日本上陸の際に同ブランドのエンジニアリングリーダー、ジョン・シムス氏はそう話していた。そう言われれば確かにそうかもしれないが、しかし大胆であることは間違いない。
これらのブランドにとってBEV化は確かに理にかなっている部分も多い。まず大前提として、絶対的な生産/販売台数が少ないことは、BEV化を後押しする大きな理由になる。充電環境が問題となりにくい、ということも言える。ベントレーやロールスロイスのオーナーは間違いなくガレージにクルマを収めているはずであり、公共駐車場を使っていたり、あるいは道路脇に停めていたりというユーザーよりも、はるかにハードルが低くなる。
しかし、それ以上に大きいのはBEVが今、カスタマーにとって新鮮な驚きをもたらす商品だという事実だ。内燃エンジン車のパワー競争はエスカレートしていて、今や600psあっても驚きはなく、それが650psになったとしても興味を惹くのは難しい。
それがBEVならば同等の出力にさらに圧倒的なレスポンス、スムーズさ、静粛性といった新たな価値が加わる。昔なら8気筒の次は12気筒に乗りたいと思ったように、今や8気筒の次は高出力電気モーターのBEVというわけだ。