メルセデスAMGが求めるのは、あくまで高いパフォーマンス
「ハイパフォーマンスブランドにとって、瞬時に大きなパワーが得られる電動化は脅威ではなく大きなチャンスです。EV航続距離を求めるユーザーのためにはメルセデス・ベンツのブランドに多くの選択肢を用意しています。メルセデスAMGが求めるのは、あくまでパフォーマンスです」
IAAモビリティで発表されたメルセデスAMG初のPHEVモデル、GT63 Eパフォーマンスのわずか24kmというEV航続距離について聞いた時の、メルセデスAMGチーフテクノロジーオフィサー、ヨッヘン・ヘルマン氏からの返答である。
PHEVについてだけでなく、電動化全般について彼らの考えは同じだろう。要するに電動化はプレミアムブランドにとっては、新しいマルチシリンダー高出力エンジンと同じような位置づけなのだ、ユーザーを驚かせ、乗ってみたいと誘引するための。そうした発想の転換を促したのは、もちろんディーゼルゲートであり、環境意識の高まりであり、さらにはハイブリッド技術をモノにできなかったという現実であることも間違いではない。
しかし一番の後押しとなったのは何と言ってもテスラの台頭だろう。彼らにとっては2作目のモデルに過ぎないモデルSはプレミアムカー市場を席巻する大ヒットとなり、続くモデルX、モデル3などがそこにブーストをかけた。20年の年間販売は約50万台。それが21年にはほぼ50%増の75万台まで増える勢いなのだ。無視することなどできるはずがない。
ポルシェが最初のBEVとして4ドアスポーツカーのタイカンを投入したのは、まさにテスラモデルSに対抗するためだ。メルセデス・ベンツEQSのターゲットもここであることは明らか。パナメーラもSクラスも、モデルSにやられてしまっているだけに一矢報いる必要がある。
BEVの魅力は目新しさ。課題はバッテリーのコスト
先に書いたとおり、このセグメントのユーザーは、何か新しい、他では味わえない体験ができるものを常に探している。周囲から一目置かれるクルマはないかと常に物色しているのだ。結果としてモデルSからのテスラ車は、そこへ見事に適応した。
環境意識の高まりでそれらを選んでいるというわけではなく・・・いや、もちろんそういう意識のユーザーも存在するには違いないが、あくまで新しい面白いクルマが、たまたまBEVだったという話なのである。そして今、ようやくテスラ包囲網ができつつあり、ここでのパフォーマンス競争はこれからが本番といった雰囲気を漂わせているのだ。
一方、プレミアムブランド以外のメーカー、コンパクト/ミディアムサイズのモデルについては、まだまだBEV化のうねりはそこまで大きくはなっていない。現実問題として、掛け声は大きくてもユーザーはそこに追いつけてはいない、という状況である。
フォルクスワーゲンは21年7月に開催したオンライン発表会「NEW AUTO」で、30年にはBEVの販売割合がほぼ50%になるとした。現状は10月に発表された21年1月〜9月のBEV販売台数として16万7800台という数字が出ている。20年の年間販売532万8000台に照らし合わせると、ざっと4%あたり。これから10年で倍強にしていくことになる。
フォルクスワーゲングループでは26年以降、プラットフォームをSSP(スケーラブルシステムプラットフォーム)1本に集約し、バッテリーのギガファクトリーを増設していくなどして、しっかり利益を出していく方針が明らかにされている。
少なくともメーカー側では、BEVシフトに向けた態勢は着々と整えられていると言っていい。ちなみにバッテリーの素材はリン酸鉄、マンガン、ニッケルをセグメントごとに使い分けしていくという。リチウムイオンバッテリーだけですべてを賄うのは無理というわけだが、そうなると性能的には不安が出てくるのも確かだ。
ステランティスもやはり26年までには、BEV所有コストを補助金なしでICE車と同等にするという方針を示した。これも鍵を握るのはリチウムイオンバッテリーのコストだろう。実際、生産量の拡大とともに下がる下がると言われ続けて何年も経ち、結局下がらずリン酸鉄やマンガンが再浮上している状況を見れば、それが容易ならざることは明らかだ。
そう考えればおそらく今後も引き続き、BEV化の流れはハイエンド&プレミアムのセグメントから進んでいくことになりそうである。続くのはおそらくシティコミューター的な小型車。その間に位置するクルマがすべてBEVになるまでには、まだ相当な時間がかかると見るのが妥当だろう。