カーボンニュートラルを合成燃料で実現させる
難しいのがスポーツカーだ。それこそフェラーリやランボルギーニ、アストンマーティンなどを見れば、内燃エンジンから脱却することは情緒的にも簡単ではないわけだが、実際問題としていくらパワーとレスポンスを容易に得やすいとは言え、大容量のバッテリーを積めば車重増を避けられないのが現状のBEVだ。よほどのブレイクスルーがない限り、それは不可能に近い挑戦となる。
そこで注目されるのがeフューエル、つまり合成燃料だ。すでに手掛けているポルシェは、他のモデルはすべてBEV化しても911だけは最後までフラットシックスで走らせるつもりでいる。内燃エンジンをそのまま使いながらCO2排出量を最大90%削減できるこの燃料は風力発電で水を酸素と水素に分解し、その水素をCO2と組み合わせた合成メタノールが原料。プラントはチリに建設中で、22年中盤から生産が始まる。価格は、30年までに1L当たり2ドルを目指すという。
将来のスポーツカー、あるいは内燃エンジンについて考える上ではF1世界選手権の動向も無視することはできない。23年よりeフューエルを導入予定のF1にポルシェとアウディが関心を示していることは、もはや公然の秘密。BEVシフトと言っているのになぜ内燃エンジンを・・・というところに、彼らのしたたかさ、あるいは二枚舌が見えてくる。
市販車は当面とりあえずBEVへの移行を進めつつ、モータースポーツの最先端の場でeフューエルを含む内燃エンジン技術はしっかり蓄積しておき、いざという時に備えようという意図がそこにはありそうだ。さらにその先のF1には、水素エンジンという噂もある。さて、21年で撤退してBEVに邁進しようというメーカーは、本当にそれで良かったのだろうか、というのは余談である。
あちこち話題を飛ばしながらここまで来たが、BEVあるいはカーボンニュートラルに向けたヨーロッパの自動車メーカーの雰囲気は、ざっとこんなところだ。
ユーザーとしては、ハイエンドやプレミアムではこれまで見たことのないような面白いBEVに出会えるだろうし、スポーツカーにはまた違う未来がありそうだ。そして普及モデルについては、まだまださまざまなパワートレーンが乱立する状況が続くというのが筆者の見立てである。それはけっして退屈になどならず、これまで以上に面白いクルマに出会わせてくれそうという気がしているのだ。(文:島下泰久/写真:IAAモビリティ、ダイムラーAG、ステランティス)