実用域での十分なパワーと使いやすさが特徴のエンジン
日本仕様車に搭載されるのは、ヨーロッパ市場ではシリーズ頂点のモデルに積まれる3Lのターボ付き6気筒エンジン。「直列6気筒のユニットを横置き」という世界的にも稀なレイアウトを採用する最大のメリットを、ボルボでは例によって「フロントクラッシャブルゾーンの確保に有利だから」と説明する。
ただし、そんな長いエンジンをさらにトランスミッションと直列配置するため、横方向に必要なスペースが増すことは避けられない。先に述べた「XC90とほとんど変わらぬ全幅」や5.8mと大きい最小回転半径には、そうしたパッケージングからくる固有の事情もあるわけだ。
走り始めてまず印象に残るのは、静粛性が予想していたよりもはるかに高いこと。とくに、外界のノイズから遮断される感覚は圧巻で、これがこのモデルの静けさの大きな要因になっている。ただし、テスト車はオプション設定の「ラミネーテッドガラス」を装着。パノラマルーフを含めたすべてのガラスに装備されたこのアイテムは、防音性と保安性に効果を発揮するというから、その分ここでは割り増しの評価ということになる。一方で、そんなラミネート処理を施されたサイドガラスを通しての風景にはわずかな像の歪みが発生。横方向の眺めに、わずかな違和感を覚える人がいるかも知れない。
そんなXC60の加速の印象は、必ずしも強力とは思えなかった。それでもいざ全力加速となれば0→100km/h加速を7.5秒でクリアするという実力ゆえ、日常シーンで不足を感じることは皆無だし、意識しない間に効果を発揮し始めるターボブーストにサポートされた加速感も悪くない。
先に静粛性を褒めたばかりだが、反面でアイドリング時からうなりを発するエアコン用コンプレッサーのノイズは意外に耳障りだ。音関係で言えば、なぜか左ドアスピーカーから発せられるナビゲーションの案内音声も、機能面からすれば疑問を感じさせられる。
ATのプログラミングが日本の街乗りシーンでもまったく不自然さをともなわないのは、古くからのボルボ各車に共通する美点のひとつ。シフトパドルの類はオプションとしても用意されないが、エンジンブレーキ力のコントロールなどを考えるとここも今後の検討課題だろう。18インチのサマーシューズ(テスト車はピレリPゼロ・ロッソ)自体は路面凹凸を細かく拾いがちだが、サスペンションの動きは滑らかだ。
ハンドリングは俊敏な感覚が控えめで、シャープな身のこなしを好む人には「これではちょっと物足りない」と思わせる可能性を否定することができないが、こうしてある種おっとりとした動きを感じさせるのが「ボルボの流儀」というべきセッティングなのかも知れない。
先進の「シティセーフティ」は時代を変える安全装備だ
ところで、そんなXC60で避けては通れない話題が、「衝突事故のおよそ75%が30km/h以下で発生し、その約半数は衝突の瞬間までまったくブレーキ操作をしていない」という自らの調査結果に基づいて採用となった「シティセーフティ」。
赤外線レーザーセンサーによって常に約6m前方をサーチし、30km/h以下で追突が避けられないと判断するとブレーキを自動的に作動させてそれを回避、または被害を軽減させるというその効用もさることながら、真に評価すべきはメーカーとインポーターが一体になってそれを許認可省に認めさせ、日本でも標準装備化を実現した点にある。
これがXC60の魅力度をさらに高めるアイテムであることは疑いない。さらに、「今後デビューの各車にも標準化」ということにでもなれば、それは今後のボルボというブランド力自体を大きく引き上げる、重要な原動力ともなるだろう。(文:河村康彦/写真:原田 淳)
ボルボ XC60 T6 SE AWD 主要諸元
●全長×全幅×全高:4625×1890×1715mm
●ホイールベース:2775mm
●車両重量:1930kg
●エンジン:直6DOHCターボ
●排気量:2953cc
●最高出力:210kW(285ps)/5600rpm
●最大トルク:400Nm/1500-4800rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●10・15モード燃費:7.8km/L
●タイヤサイズ:235/60R18
●車両価格:599万円(2009年当時)