16代目クラウンの誕生を機に、各世代のカリスマ性を彩ってきた「はじめて」をあらためて紐解く特別連載企画。第3回は、1967年に誕生した第3世代「MS5#型」をご紹介しよう。開発テーマは「ゆとりある高速長距離セダン」。安全設計でも国産初の本格派へと成長していた。(Motor Magazine Mook 「TOYOTA CROWN 13th」より)

2ドアハードトップで、新たなプレステージ性を獲得。豪快な一面も

画像: トヨタ博物館所蔵の3代目クラウン2ドアハードトップ。MS51型ハードトップ(1968年)。

トヨタ博物館所蔵の3代目クラウン2ドアハードトップ。MS51型ハードトップ(1968年)。

68年11月にはクラス初の2ドアハードトップも登場する。センターピラーを取り去ったスタイリッシュな2ドアHTで、角型ヘッドランプを採用するなど、パーソナル感覚を前面に押し出した。

このクラウン2ドアHTはいわば、プレステージ・スペシャリティカーの先駆車といえる。エンジンは直列6気筒だけの設定で、シングルキャブ仕様とツインキャブで武装したSLが用意された。

69年8月に化粧直しを行ない、グリルとリアコンビランプを立体的な造形にしている。また、M型エンジンをパワーアップした。2ドアHTにパワーステアリング装備のスーパーデラックスが登場したのもニュースだ。

長いボンネット下に収まったM-D型ストレート6を秘める。愛三製ストロンバーグ型2バレル・キャブレターを2連装し、115ps/5800rpm、16.0kgm/3600rpmを絞り出す。トップグレードのSU型キャブ2連装、M-B型125pss仕様を搭載したSLモデルには、データ的には負ける? が、実際のところ、そのパワーの差を感じることは少ないだろう。

ツインキャブ仕様のSLに試乗してみると、800rpm前後に保たれたアイドリング・スピードは、クラッチ・ミートさえ慎重にやればそのまま1315kgのボディが滑り出していくほどの強力さがある。

画像: いま見ても新鮮で流麗なスタイリング。その後、受け継がれる2ドアHTの原点がここにある。

いま見ても新鮮で流麗なスタイリング。その後、受け継がれる2ドアHTの原点がここにある。

ただ、ツイン・キャブレターにしていることで吸入効率は高まっており、アクセレレーションに対するレスポンスではシャープな反応を見せる。

計器盤には、エンジン回転計が備え付けらており、ブリッピングでは軽く6000rpmまで針を跳ね上げる。しかし、無負荷状態でのシャープなレスポンスは、11.0kg/psというパワーウェイト・レシオからなのだろうか、実際の加速/走行性能は、ベースモデルをわずかに上回っているか、という程度のものだった。

サスペンションは前後共にコイル・スプリングを主緩衝材に使った前ウイッシュボーン、後トレーリング式リジッドで、その乗り心地はかなり柔らかいものだが、その割にロール率は少ない。

ハードトップというクラス唯一のスタイル、そして高いパフォーマンスと優れた乗り心地は、純オーナーカーとして、理想に近い姿を見るようだ。(文:宮前良介)

■トヨペット・クラウン ハードトップ スーパーデラックス 主要諸元

●全長×全幅×全高:4610×1690×1420mm
●ホイールベース:2690mm
●車両重量:1315kg
●エンジン:直6SOHC
●総排気量:1988cc
●最高出力:115ps/5800rpm
●最大トルク:16.0kgm/3600rpm
●トランスミッション:4速MT
●駆動方式:FR
●当時の車両価格(税込):117.3万円

ご当時インプレダイジェスト ── 68年式オーナーデラックス

「オーナーデラックス」は、オーナー・ドライバーにも似合うクラウンを、というコンセプトで、新しく誰生したモデルだ。試乗車はアイボリー・ホワイト(トヨタではユセ・ホワイトという)に彩られた華やかなたたずまいの持ち主。それはまさに、近頃、テレビでのコマーシャルによく登場する『白いクラウン』というやつだ。

画像: 68年式オーナーデラックス。グリル部の意匠など、スーパーデラックスに比べるとすっきりした印象がある。

68年式オーナーデラックス。グリル部の意匠など、スーパーデラックスに比べるとすっきりした印象がある。

試乗車は4速フロアシフトにリクライニング式のセパレート・シートが取り付けられていた。ちなみに標準仕様のオーナーデラックスは88万円。フロアシフトとリクライニング・セパレート・シートを組み合わせると91万円になる。

座り心地の良いセパレート・シートに身を置くと、運転姿勢がずいぶん楽になった。インパネ部のヘッド・ライトやワイパー・スイッチのノブ類は塩化ビニール製。力を加えると柔らかく曲がる。これも安全設計のひとつである。

このクルマに限らず、国産車に安全項目を採り入れるのが大流行の昨今である。その一例に、分離系統式ブレーキがある。片方の油圧にトラブルを発生しても他方の油圧系で制動できるもので、国産車ではまだあまり採用例は少ない。

オートチョークが解除されるのを待って、混雑した東京の雑踏へと出た。Tの字にパッドを取り付けたステアリングはアメリカ車のそれを想わせる。細長いホーンボタンがT字形のステアリングスポークの先端に組み込まれてある。

画像: こちらはスーパーデラックスのエンジンルーム。2バレル・キャブレターを2連装したM-D型SOHC 6気筒エンジンを搭載。110ps/5600rpm、16.0kgm/3600rpmを発揮する。また、ブレーキ・ブースターを装備している。

こちらはスーパーデラックスのエンジンルーム。2バレル・キャブレターを2連装したM-D型SOHC 6気筒エンジンを搭載。110ps/5600rpm、16.0kgm/3600rpmを発揮する。また、ブレーキ・ブースターを装備している。

ハンドルを切るに従って歯車比の変化するバリアブル・ピッチ・ステアリングの効果は大きいようだ。旧クラウンのステアリングは切り始めこそ軽いものの、切っていくに従い、重くなる傾向が見られた。しかしニュー・クラウンでは、その欠点が完全に改められている。

ブレーキは良い。前輪がツー・リーディング式、後輪がデュオサーボ式のドラム・ブレーキであるが、ちょうど、ディスクブレーキのような感じで、ジワリとよく効いてくれる。試乗中の制動に大幅の信頼感を抱かせてくれるものだ。

フロアシフト4速のシンクロの出来はあまり褒められたものではない。フィーリング自体は悪くないのだが、シフトタッチが重いのだ。もっと軽いタッチを望みたい。

乗り心地も良い。柔らかいスプリングでソフトな感じはアメ車のようだ。コーナリングでは、ロールは大きく現れる。しかし安定性は非常に良い。偏平タイヤの効果が随分あるのだろう。高速走行時の安定性もすこぶる良いものである。そして、走行時車内が静かなのもなによりだ。

0→100km/hの発進加速を計測してみた。19.2秒であった。スーパーデラックスは20.3秒だ。これはオーナーデラックスの4速フロア仕様、スーパーデラックスの3速コラム仕様(オーバードライブ付き)による性能差といえよう。

91万円という価格から見れば、オーナーデラックスは確かに、魅力のあるクルマである。(篠崎 博)

■トヨペット・クラウン オーナーデラックス 主要諸元

●全長×全幅×全高:4665×1690×1445mm
●ホイールベース:2690mm
●車両重量:1310kg
●エンジン:直6SOHC
●総排気量:1988cc
●最高出力:105ps/5200rpm
●最大トルク:16.0kgm/3600rpm
●トランスミッション:4速MT
●駆動方式:FR
●当時の車両価格(税込):91万円

This article is a sponsored article by
''.