「RS」のイメージを決定的にした73年型ポルシェ 911 カレラ RS
自動車における「S」の称号は、スポーツ、スピード、スプリント、スペシャルなどの意として第二次大戦以前から広く用いられてきた。一方「R」の称号はレーシングを示すこと過半で、高性能車を表した戦後のキーワードといえるだろう。メルセデスの300SLRや日本ではスカイラインGT-R辺りもその意が込められているが、そのものズバリ、レン・シュポルト=レーシング・スポーツを表現した73年型ポルシェ911 カレラ RSがこの強靭なイメージを決定づけたクルマといえるだろうか。
そのポルシェは現在、992型ベースの911 GT3 RSと、982型ベースの718 ケイマン GT4 RS、2つのRSを有している。ともに9A1系の自然吸気4Lフラット6を搭載し500ps級の最高出力を発生。ニュルの北コースをGT3 RSは6分49秒台、GT4 RSでも7分9秒台で周回するという。
車格やパワーを鑑みると破格ともいえるパフォーマンスの源は、9000rpmを許容する官能的なエンジンが絞り出すパワーのみではない。むしろレーシングカーにも比肩するエアロダイナミクスと緻密なシャシワークによる運動性能の地道な向上にその功がある。とくにGT3 RSにおいては、WECのLM-GTE参戦車両やカレラカップ参戦車両の開発を通じて弛まぬ空力改善が進められ、そこで得られたノウハウが直接的にフィードバックされている。
昨今のスポーツモデルは微小入力域からダンパーの動きがよくバネ下も軽いことで、乗り心地的も整ったものが多いが、ポルシェもRS銘柄になるとさすがに毎日乗れるような柔軟性は持ち合わせていない。
GT4 RSはその硬質感もともあれ、クオーターウインドウを潰し直接エンジンにエアを導く往年のRSRばりのインテークが容赦のない吸気音をキャビンに響かせる。あくまで本籍はサーキットでストリートは余技、そこまで割り切れているのがポルシェのRSと思っておくべきだろう。
アルピーヌに統合されたルノースポール
ルノーのR.S.はそのピリオドが示すとおり、表向きの意味はルノースポールだ。が、ことメガーヌについては、ニュルでのFF最速の座をホンダやフォルクスワーゲンと争うその姿から、どうしてもレーシングスポーツとのダブルミーニングを思い起こさせる。
ルノーは現在、社内事業再編計画を進めている。その中には日産三菱との出資協議を続けているBEV向けの新会社「アンペア」も含まれるが、その過程でルノースポールの事業は「アルピーヌ」の側に統一された。F1チームがルノー名義からアルピーヌ名義に変わったこともその一環といえる。
今後、我々も親しんできたR.S.=ルノースポールの銘柄がその名も含めてどのように変貌するかはわからない。しかし代々のルノースポール銘柄、そしてアルピーヌA110といったクルマをとおして彼らの仕事を体験してきた自分としては、パワートレーンが変貌を遂げても、最大の売りがシャシとなるだろうことに変わりはないと思っている。
直近のアルピーヌのもっとも興味深いのはA110Rだ。登場当初は開発陣がエアロパーツなんかとんでもないというほど、形状とともにその素性を磨き上げていたA110があられもない姿になったわけだが、それは単に虚仮威しのコスメでないことも想像がつく。むしろ複合材で究極の軽量化を果たしたバネ下による驚愕のフットワークに期待をする向きの方が多いだろう。
もうひとつの注目は、ニュルのFFレコードホルダーであるメガーヌR.S.のさらなる進化だ。ライバルであるシビックとゴルフは直近でフルモデルチェンジが施されており、とくにシビックの側はFL型のタイプRが王座奪還を狙っているかもしれない。折につけ、トロフィーRやR26Rのようなブチキレたプロダクトを投入してきたルノーゆえ、その任を再びメガーヌに託す、そんなモデルの登場も予想できなくはない。