スペシャリティ感に溢れるが実用性も犠牲にしていない
思えば現行世代のA4/A5シリーズが世に出る前から”次期A4には4ドアクーペが設定される“という噂はあった。つまりアウディは相当以前から4ドアクーペというカテゴリーについて検討を重ねてきたということである。正直に言えば、噂を耳にした当初はその意図が掴めなかった。しかし今では、その先見性に感心するばかりである。
ここで言う先見性とは、単にこのカテゴリーの波が来るということについてだけの意味ではない。アウディにそれが必要となる意味までを含んだ話である。それについてはまた最後に触れることにして、まずはこのA5スポーツバックがどんなクルマなのか見ていくことにしよう。
その個性を形づくっているひとつのポイントが、大開口のリアゲートを備えたハッチバックというスタイルである。スポーツバックのネーミングは、まさにその独特のあり方を示していると言えるだろう。先にA3の5ドア版にも使われているその名は、そういうフレキシビリティも織り込み済みだったというわけだ。
スリーサイズは全長4710×全幅1855×全高1390mmで、A4セダンよりわずかに長く、幅はA5クーペ/カブリオレと同じで、高さはそのちょうど中間となる。
精悍な表情のフロントマスクや、優美な曲線でワイドなトレッドを強調するショルダーラインはA5シリーズに共通のモチーフ。低いルーフはなだらかにリアエンドまで繋がり、最後ダックテール状につままれている。トランク部分のノッチがほとんどないため、真横から見るとキャビンが長く見えるが、実際に陽光の下で見ると、天地方向の圧倒的な薄さや後方に向けての強い絞り込みによって、実用ハッチバックとは明らかに違ったスペシャリティ感が演出されているという具合だ。
巧妙なのは、そのパッケージングである。全高は低いがそれに伴ってドライビングポジションも低い着座位置に合わせられているため、狭さを感じることはない。リアシートも同様で、A4シリーズと同等のホイールベースが足元空間の余裕を生み出しているだけでなく、後方まで伸ばされたルーフのおかげで頭上空間も十分確保されている。具体的に言えば、身長177cmの筆者の場合、天井に髪の毛が触れるか触れないかという具合である。乗車定員を4名としたことも、余裕の確保という面ではプラスに働いているのだろう。
しかもラゲッジスペースは通常時で480Lを確保している。A4アバントが490Lだから、その差はたった10Lだ。もちろん後席は左右分割可倒式だし、リアゲートもバンパーレベルまで大きく開くから荷物の積み込みに難儀することはない。要するにそのスタイリッシュな外観は、居住性や使い勝手を一切犠牲としていないのである。
こちらもサッシュレスタイプのドアを開けて室内へ。インテリアの造形はA5、そしてA4のものを基本的に踏襲している。前述の通り着座位置は低く、いかにもスペシャリティらしい囲まれ感がある。これでこそ落ち着くという人は少なくないだろう。もちろん最新のアウディだけにクオリティは抜群。とくに日本仕様はレザーシートが標準装備となり、トリムとコーディネートされた3色の内装色を選択できるだけに、ゴージャス感はひとしおだ。
このA5スポーツバック、日本では2.0TFSIクワトロの単一モデル展開とされる。今回の試乗車はそのSラインパッケージ装着車。他にオプションとしてアウディドライブセレクトが組み合わされていた。
最高出力211ps、最大トルク350Nmを発生する直列4気筒2L直噴ターボエンジンと7速Sトロニックを組み合わせた、お馴染みのパワートレーンがもたらす動力性能はA5クーペのそれと大差ない。
車重は70kg増とは言え、わずか1500rpmという低回転域から発生する350Nmもの豊かなトルクとダイレクトな駆動伝達を行うSトロニックのコンビネーションは、それをまったく意識させない力強い発進を可能にしている。その後の加速も爽快そのもの。情緒に強く訴えるテイストではないが、このいかにも精緻な機械を操っているという感覚は「パワートレーンこそ今のアウディの魅力の大きな部分を占めている」と言いたい気分にさせるものだ。