欧州において、いかにホンダのプレゼンスを上げるか
中年のクルマ好きはホンダCR-Zを見ると、思わず興奮してしまうのではないだろうか。1983年にデビューしたCR-Xを彷彿とさせるからだ。このCR-Xは当初DOHCエンジンをラインナップせず、1.5LのSOHCが最上級だったが、同クラスのFRスポーツ、最新ツインカムエンジンの4A-GEを搭載するAE86レビン/トレノよりも筑波サーキットなどでは速かった。ウエット路面になると、その差はさらに広がり「FFライトウエイトスポーツ畏るべし」という思いを強くしたものだ。
その初代CR-X、そして2代目CR-Xとスタイリングがよく似ているCR-Zなのだが、開発にあたっては「まったくそういうことは意識していません。たまたまデザインスケッチがそうなっただけなんです」と、開発責任者の友部了夫LPLは素っ気ない。中年のクルマ好きとしては、そこにストーリーのひとつもあれば嬉しいのだが、敢えてそうした策を弄さないところが、いかにもホンダらしい。
さて、誕生の背景はどういったことなのか。これまた意外なことに「そもそもハイブリッドありき」 ではなかったそうだ。「欧州において、いかにホンダのプレゼンスを上げるか」ということが出発点だった。
そして若い人に受け入れられる200万円くらいのプレミアムスポーツを造ろうということになる。すると2012年からのEU燃費規制によるCO2排出量130g/kmに対応しなければならない。そして結果的にハイブリッドが採用されたというわけだ。
ハイブリッドであれば、インサイトとの関係が気になるが、そのあたりを順番に説明していこう。まずハイブリッドシステムのIMA(インテグレーテッドモーターアシスト)自体は基本的に両車共通。モーター、バッテリー、パワーコントロールユニットは同一だ。異なるのはバッテリーの冷却能力で、CR-Zが上だ。
さらにエンジンはまったく違う。インサイトが1.3Lの2バルブSOHCに対して、CR-Zは1.5Lの4バルブSOHCを搭載している。また、インサイトはシリンダー休止システムを持つが、CR-Zにはない。アイドリングストップしているとき以外、常にエンジンは回っている。なぜこのシステムを付けなかったのか。それは、付けるとエンジンのヘッドまわりが大きくなってしまい、ボンネットを低くできず、スタイリングが損なわれるからだそうだ。
燃費性能は10・15モードで25.0km/L(CVT)とインサイトの30km/Lよりも低い、しかも5km/Lもの差がある。
しかしそこにはひとつ大きな理由がある。それはタイヤで、サイズがインサイトは175/65R15であるのに対し、CR-Zは195/55R16を装着している。しかもインサイトは一般的な銘柄だが、CR-Zはスポーツ志向タイプだ。パワートレーンを担当するエンジニアによれば「インサイトのようなタイヤにしていれば、2〜3km/Lは燃費を上げることができました。そうしなかったのは、よりよいハンドリングのためです。欧州で通用するようにしたいという狙いがありました」ということだ。
CR-Zというクルマの性格がだんだんに見えてきたような気がする。友部LPLの言葉を借りると「スポーツとエコ、さらに使いやすさを融合(ハイブリッド)させたワクワクするクルマ」ということになる。