2023年の暮れも押し迫ったころ、新型プリウスがタイのレースに初参戦、というニュースが届きました。それを聞いて思い起こしたのが、2006年と2007年の十勝24時間レースから始まった、トヨタ・ハイブリッドレーサー黎明期の思い出。タイ戦ではカーボンニュートラル燃料を使用したとのこと。水素もいいけれど、より身近なところで「王道」が見えてきたような気がしています。<2023年末~2024年1月12日版>

本気だからこそ不安も抱えていたスープラ HV-R

トヨタの底力と本気は、早くも翌年の十勝24時間レースで証明されることになります。初戦の苦闘で得られたさまざまなデータを活かす形で翌年、レーシングスペックのハイブリッドユニットを搭載したニューマシン「トヨタ スープラHV-R」が投入されたのですが、なにしろこいつがいろんな意味で凄かった。

画像: 優勝したトヨタ・チーム・サード「スープラ HV-R」のドライバーは、飯田章/平中克幸/アンドレ・クート/片岡龍也の4名。

優勝したトヨタ・チーム・サード「スープラ HV-R」のドライバーは、飯田章/平中克幸/アンドレ・クート/片岡龍也の4名。

HV-Rの「ベース車両」は、前年までスーパーGTシリーズで戦っていたスープラGT500・・・つまり、レース専用車両での参戦です。しかも、ハイブリッドシステムもレース専用に開発された特別な仕様でした。わかりやすいところでは、4輪駆動システムを採用していたことからも「凄い」ことを理解してもらえると思います。

さらに驚くべきは前輪左右に、インホイールモーターを使っていたことでしょう。左右の駆動力配分こそなかったものの、GTの4.5L V8エンジンとインホイールモーター、さらに専用のキャパシタまで組み合わせていました。トヨタ モータースポーツ部は、正真正銘の「十勝スペシャル」としてHV-Rを仕上げてきたのでした。

それはまさに「スポーツハイブリッド」の未来を切り開くための、戦いでした。実際、実戦でのデータは市販車両へのフィードバックを大前提に、さまざまな課題の洗い出しを狙っていました。もっとも実はこの時、そうした野望そのものが崖っぷちに立っていたといいます。

画像: ドライでマージンを稼ぎ、ウエットではひたすらマシンをいたわる走りに徹したドライバーの技量にも拍手。ちなみに最終的に、EVモードでチェッカーを受けたという。

ドライでマージンを稼ぎ、ウエットではひたすらマシンをいたわる走りに徹したドライバーの技量にも拍手。ちなみに最終的に、EVモードでチェッカーを受けたという。

なにしろ他のS耐マシン(2007年から「STグループ」と規定されていた)の改造範囲は限定されており、HV-Rは唯一の「GTクラス」として明らかに格上。つまり戦闘力の差は歴然。ここまで力の入った体制で無様な敗北を喫してしまえば、レースにおけるスポーツハイブリッドの研究開発という計画そのものが、頓挫してしまう可能性があったのですから。

しかもこのマシン、当初からいくつかの課題を抱えていました。そのひとつが、効率的なエネルギー回生の切り札として採用されていた、インホイールモーターそのものに起因する課題です。開発陣が苦労したのは、回生によるブレーキングタッチの違和感を解消することでした。

とくに長丁場のレース中、ヘビーウェットになった時のコントロールに不安があったといいます。加えて、GT500の強心臓にトルクフルな電気モーターを組み合わせることで、ミッションの耐久性にも「爆弾」を抱えていました。楽勝かと思いきや、チーム的にはかなりドキドキな要素があれこれ秘められていたわけです。

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