もしかするとエンジンの未来につながる「天下分け目」だったかも
さて、ふたを開けてみれば、HV-Rはしっかりその「任務」を全うすることができました。ストレートでの段違いの速さが、コーナーで無理をしなくてすむ余裕を生み、結果として安全マージンの高いレース展開を可能にしました。
なによりメカニカルトラブルが一切なかったというから、開発陣の心配はまさに杞憂・・・だったとは言い切れなかったようです。ペース的にはそうとうセーブしていたことに加え、大半が雨模様だったためもあって、マージンを懸命に守るべくミッションをいたわり、回生ブレーキを調整し続ける「神経戦」が展開されていたと、後から知りました。
この勝利の後、当時のモータースポーツ部でハイブリッドマシン開発の中心を担っていた村田久武氏は、取材陣に「まだ第一歩。目標は全然、高いところにある」と語っています。明言されてはいなかったけれど、「対ディーゼルなどというレベルの目線にはない」というコメントが、その目標がどこにあるのかを物語っていたような気がします。
村田氏のある意味、不敵なコメントは数年後、現実になりました。2012年から耐久レースの頂点であるル・マン24時間耐久レースにハイブリッドLMP1マシンで参戦、幾度かの悔しい結果を経ながらも、2018年トヨタのTS050 HYBRIDによってついに念願の初優勝を成し遂げたのでした。
2007年の十勝でもしもHV-Rが惨敗を喫していたら、ル・マンへの挑戦はありえなかったかもしれません。いや、スーパーGTにプリウスが参戦することすら、なかったかも。もしかすると「スポーツハイブリッド」というジャンルそのものの誕生が、より遅くなっていたかもしれない・・・などと考えると、当時のモータースポーツ部の面々には感謝しかありません。
彼らの奮闘が生んだ未来への希望の芽は、もしかすると今、トヨタが掲げる「マルチパスウェイ」という戦略にまで通じているのかもしれません。それは、TAS2024において「普通のクルマ好きのおじさん」として参加した豊田章男会長のメッセージからも感じられます。
「この時代にエンジン?逆行しているように聞こえるかもしれませんが、決して、そんなことはありません。未来にむけて必要なんです。エンジンを作ってきた皆さん、エンジンを作り続けましょう!」(「モリゾウから新年のご挨拶」リリースより抜粋)
これほどに「エンジン、あって当然!」だと自信を持って宣言できるのは理由のひとつは、ハイブリッドが単なるエコカーの心臓ではないから。スポーツカーにもプレミアムカーにも使うことができるパフォーマンスと優れた効率、そして絶大なる信頼性という「エビデンス」を、レースの世界で実証してきたからこそ、ではないでしょうか。
モリゾウと同じく、エンジン大好きな人間としては、CNFで走るハイブリッドカーが普通に市販されることを期待しています。あ、まずはなによりCNFが普通に(それなりの高価格でもしばらくは仕方ないので)買えるようになると、最高なんですけどね。(写真:井上雅行)