ワールドプレミアが2022年9月、京都の仁和寺で行われたジャパンプレミアが同年11月だったから、昨今の新型車の中では待たされた方だと言えるだろう。フェラーリのプロサングエが、ようやく日本の道を走り始めた。ある意味で、究極の「四駆王」ともいえるモデルだろう。(MotorMagazine 2024年8月号より)

優れたハードウェアとともに、実用性にも配慮

ラゲッジスペースの容量は後席使用時でフェラーリ史上最大と言われる473L。とは言え、GTC4ルッソの450Lと数値上は大差ないのだが、段差のないフラットな空間は、格段に扱いやすくなっている。

画像: リアシートバックを倒してフル積載可能な状態。ルーフキャリアの用意もあると、スキー場などでは大いに映えそうだ。

リアシートバックを倒してフル積載可能な状態。ルーフキャリアの用意もあると、スキー場などでは大いに映えそうだ。

しかも取り外し式の隔壁を外して、スイッチひとつで格納と展開ができる後席バックレストを前に倒せば、さらに広いスペースを確保することもできる。4人で長期の旅行は厳しいかもしれないが、1〜2泊分の荷物なら積み込める。ふたり旅なら余裕だろう。

このボディはアルミニウムを主体に高強度スチールなどを組み合わせたもので、当然このクルマだけのために開発されたものだ。

ルーフパネルはCFRP製。中間層に防音素材を挟み込みながらも、アルミニウム製とするより2割も軽いと謳われている。

前ヒンジのボンネットフードを開けると、キャビン側に食い込まんばかりに後方に積まれているV型12気筒エンジンは排気量6.5Lの自然吸気で、最高出力725ps、最大トル716Nmを発生する。そのアウトプットはエンジン前方に置かれたPTU(パワートランスファーユニット)により前輪に、そしてトランスアクスルレイアウトの8速DCTを介して後輪に伝達される。

画像: 前ヒンジ式のエンジンフードを開くと、キャビン側に押し込まれたようなレイアウトのV12エンジンの前半部が見える。

前ヒンジ式のエンジンフードを開くと、キャビン側に押し込まれたようなレイアウトのV12エンジンの前半部が見える。

そしてハードウエアの一番の目玉となるのが「フェラーリアクティブサスペンションテクノロジー(
FAST)」だ。

これは4輪それぞれの車高を、ダンパーに仕込まれた電気モーターによって個別に制御するもので、単に車高を調整できるだけでなくロールやピッチングといった姿勢のコントロールも可能とする。シャシはこれと減衰力可変システム、後輪操舵、E−デフ、ブレーキバイワイヤシステムなど、さまざまな機構が統合制御されているのである。

余裕の速さ。車両感覚は思いのほか掴みやすい

改めて、ドライバーズシートへ。ポジションを合わせると視界の隅にかすかにフェンダーの峰が入り込んでいる。ドアミラーに視線を移せば、こちらもリアフェンダーが後輪のおおよその位置を教えてくれるという具合で、高めのアイポイントと相まって実は車両感覚は思いのほか掴みやすい。地上高の余裕ゆえに少々の段差は気にしなくて済むのも嬉しいところだ。

画像: ダッシュボードは左右の印象が共通したものとなるデュアルコクピットデザイン。助手席側にもディスプレイを装備。カーボンファイバートリム類などはオプション。

ダッシュボードは左右の印象が共通したものとなるデュアルコクピットデザイン。助手席側にもディスプレイを装備。カーボンファイバートリム類などはオプション。

ちょっと緊張感がほぐれるのを感じながら、いよいよスタートだ。

ハンドル上のスイッチに触れエンジンを始動させると、始動音もそしてアイドリング時のサウンドも至って控えめで、最初は拍子抜けしてしまった。しかし、それも深夜早朝に出かける際にも気遣いが要らなくなったと考えれば、使い勝手の間口がかつてないほど広いこのクルマには合っていると言えるだろう。

日常域での所作は、ありあまるパワーとトルクをひけらかすことのない穏やかなもので、まさに踏めば踏んだ分だけ、いかにもV型12気筒らしい緻密できめ細やかな回転上昇とともに余裕の風情で速度を高めていく。音圧はやはり大きくはないが、単に静かというのではなく硬質で粒の揃った心地良い音色は、十分に酔わせてくれる。

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