2026年10月17日、自動車メディア向けに「SUBARU 開発戦略 説明・取材会」が行われ、現在開発が進められている新技術や新型車両の経過報告が示された。そこで発表されたのは、強化を図っている安全面での取り組みや、アイサイトの次展開、新開発の統合制御システム、高効率「BOXER」やe-Axle&バッテリーパック、そして独自開発のBEVなどがお披露目されるという盛りだくさんの内容だった。

文: 功刀和幸(MotorMagazine編集部)/写真: 永本秀和
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2025方針で発表した開発項目の具体成果が発表された

SUBARUは2023年の8月に、将来の自動車市場を睨んだ新体制への移行を発表し、大胆な改革を行った。

そして2025年にはその具体的な展開として「2025方針」を発表。同年に開催された「ジャパンモビリティショー」ではその方針の一部を具現化したプロトタイプの車両を展示した。今回の「SUBARU 開発戦略 説明・取材会」では、開発が進められている新たな展開の一部の途中経過がお披露目される形となった。

まずは開発体制の改革として5つが示された。
・開発の方式&体勢を見直し、大胆に改革を行った成果
・分業しすぎず、守備範囲を広げて意識を共有する大部屋開発
・CAE(Computer Aided Engineering=計算機援用工学)技術の活用による開発プロセスの大幅短縮
・同時並列進行による開発時間の短縮
・短縮してできた時間を、商品のレベルと魅力の向上に充てる

この体制を整えながら、今後のSUBARUのクルマづくりのテーマをこう示した。

「SUBARUは世界一安心して移動できるクルマづくりを目指します」と。

画像: プレゼンテーションを行うSUBARU技術本部副部長の渡森考有氏。

プレゼンテーションを行うSUBARU技術本部副部長の渡森考有氏。

世界一安心して移動できるクルマづくりを目指す

「2025方針」の中で、将来の不透明な自動車市場の変化を、モノづくり革新における柔軟性の徹底的な追求で乗り越えると宣言。

その中で磨き続けるのは「安心と楽しさ」。どこまでも行きたくなる「安心」。そしてそれを土台にした心からの「楽しさ」を感じられるクルマづくりを進めていくという。

SUBARUは以前からパッシブ/アクティブの両面での安全性能向上に注力してきており、2030年までに死亡交通事故ゼロを目指すという目標を掲げている。その成果として2026年の2月に「フォレスター」がJNCAP「自動車安全性能2025 ファイブスター大賞」を受賞するなど、高い評価を得ている。

国内販売台数100万台あたりの死亡重傷交通事故の件数率は、この10年間で約50%まで低減していて、SUBARUは国内メーカーの中でも最も事故率が低い実績となっている。

しかしその一方で重傷事故の件数が横ばいである実態に対して大きな課題感を持っており、今後はすべての事故に対して防止に取り組む姿勢を表明。それを言葉にしたのが「SUBARUは世界一安心して移動できるクルマづくりを目指します」というわけだ。

画像: JNCAP「自動車安全性能2025 ファイブスター大賞」の受賞式。

JNCAP「自動車安全性能2025 ファイブスター大賞」の受賞式。

改革のために変えていく、3つのこと

1:ハード・ソフト・実車検証を一体で統合開発すること。

ハードウエア、ソフトウエア、実車検証を一体で進める統合開発環境を整備。ハード・ソフト一体で設計し、自作して自社評価まで一気通貫で行う。その過程で必要ならやり直すことも厭わず、チーム一丸でアジャイル(迅速)なやり方と互いに信頼される関係を構築するという、まるでスタートアップ企業のような進め方だが、それが将来を生き抜いていく柔軟性につながるだろう。そしてソフトウエア開発にも注力し、SDV(Software Defined Vehicle=通信アップデート可能な車両)の時代に適応していく。

2:分業しすぎない現場を作ること。

分業化は専門分野に注力させ、品質や性能が向上できるが、その一方で連携不足などで進行が滞る場面も多々あった。自社の企業規模を見つめ直し、むしろそれを強みとして、専門領域だけでなく車全体の価値を理解し、小さなアジャイルを回しながら現場現物で開発を変えていく「ワンチーム」によるクルマづくり、「分業しすぎない現場」を構築していく。また、サプライヤーもチームの一員に加わってもらう。

3:人の感性で磨き上げること。

数値化が難しい安心感という感性と車両全体の力の流れを紐解くため、先人たちが試行錯誤を重ねてきた知見を資産として活用。スバル・グローバル・プラットフォーム(SGP)の開発では、エンジニアが車体の数千カ所に歪みゲージを張り付けて力の流れを可視化する取り組みを行い、コンポーネントごとに分析、知見や指標を体系化してきた。
しかし動的な現象は瞬間ごとに変わるため、解析だけで突き詰めるのは困難となる。その問題に対し、CAEなどデジタル技術やAIの導入によって対応。解析の熟成が進んだ現在では、開発初期から多くの現象を予測し、エネルギーの流れを見える化する設計へと転換、設計に盛り込んで好結果を出している。
ただしSUBARUは、デジタルやAIだけでクルマの新しい価値が生み出せるとは考えていない。感覚や経験から得た安心、楽しさの要素をCFDなどの物理デジタルモデルに流し込み、アジャイルな実車化により、人の感性での検証を短いループで回し、密度の濃い開発を進めていく方針を推進していく。

画像: 独自開発BEVの1次試作台車とその開発メンバー。

独自開発BEVの1次試作台車とその開発メンバー。

企業規模を見つめ直し、全てを追い求めるのではなく、SUBARUらしさの源泉と考えるクルマの本質(触れて感じる領域、認識・判断・車両運動の統合制御)に技術資源を集中し、商品力を高めていく。

SUBARUで初となる独自開発のBEV(試作台車)を初公開

CAE技術の活用や大部屋開発などの効果で開発期間を大幅に短縮。1次試作台車の完成を早め、その性能、品質を過去に無いレベルで向上させることが出来た。以前の方式では、まだ台車のカタチに出来ていない早い段階で、エネルギー伝搬特性の向上や衝突安全性能向上などの要件を盛り込んだ高いレベルの1次試作台車をロールアウトでき、開発の当事者自身が驚いたという。ちなみに以前の1次試作台車は、とても今回のように外部に公表できる代物ではなかったそうだ。
※試乗レポートは別記事にて。

画像: SUBARUで初となる独自開発のBEV(試作台車)の試乗の様子。

SUBARUで初となる独自開発のBEV(試作台車)の試乗の様子。

次世代プラットフォームと次世代パワーソースについて

「世界一安心して移動できるクルマづくり」の実現には、いかにドライバーがクルマと対話できるかが安心の肝だと考えているという。

従来の技術者が培ってきたアナログ手法での知見をCAEのデジタル技術に盛り込んで熟成させてきた成果として、車両エネルギー伝達を制御する解析技術「ダイナミック・スティフネス・コンセプト」を開発。それを活用し、全輪操舵に対するフロントからリアへのエネルギーフローを最適化。ドライバーに必要なインフォメーションを伝えつつ、ノイジーではない素情のいいメカを磨き上げることで、余分な制御が不要になり自然な走行感を実現するという。

CAE解析のデモンストレーションとして示された映像では、シミュレーションの画像と実際に衝突試験を行った動画が並べて表示され、ほぼ同じ変形が進んでいく様が見て取れ、その予測の正確さに驚かされた。

また、AWDの駆動配分を動的に解析することで、後輪寄りのバランスが「まっすぐ走れる」ことに寄与する事を導き出した。新プラットフォームではその知見を最大限発揮できるよう、エネルギー伝搬のモデルを新たに構築して盛り込んでいる。こうして、世界的にも評価の高いAWDの技術を、さらに高みに引き上げる方策を進めている。

画像: CAE解析による動的質感向上の解説を行う技術スタッフ。

CAE解析による動的質感向上の解説を行う技術スタッフ。

アイサイト技術を下地に、レベル2+を実装。レベル2++も視野に

SUBARU車の高い安全性に大きく寄与している「アイサイト」技術は、自動運転の面でも業界をリードするレベルにあるが、徐々に導入が進んでいる自動運転「レベル2+」にはすでに対応を済ませ、その先の「レベル2++」を見据えたシステムの開発を進めている。この「2++」の実装にはAIによる瞬時予測対応が必要になるため、新開発の「制御統合ECU」にはAI推論処理に特化したチップが採用されている。

この取材会ではテストコースを使い、全車速でのハンズオフアシスト機能の試乗体験が行われた。
・ハンズオフ中のウインカー操作のみでのレーンチェンジ
・ハンズオフアシストによる自動追い越し
・ドライバー異常時対応システムによる自動の路肩への退避

画像: 自動運転レベル2++の機能が実装されたレヴォーグの試験車両。

自動運転レベル2++の機能が実装されたレヴォーグの試験車両。

ハンズオフアシストは、システムがドライバーと周囲の状況を検知して安定した走行が出来ると判断した状態で稼働可能になる。利用可能な速度域は「全車速」だが、このときは80km/hでの試乗となった。

ハンズオフ可能を示す水色の表示を確認してハンドルから手を離すと、予想よりずっと安定して車線をピタリと維持してくれる。そこからウインカーレバーを操作すると、3回ほど点滅した後にスーッと車線を変更。動作が完了するとウインカーオフを促す表示になる。このときは単独走行だったが、他走行車両が居る場合は動作をキャンセルし、安全を確保してくれるという。

画像: ハンドルから手を離したハンズオフ状態で周回路を80km/h走行する様子。

ハンドルから手を離したハンズオフ状態で周回路を80km/h走行する様子。

自動追い越しは、80km/hで定速走行中に低速車両に追いつくというシチュエーションが用意された。前走車が視界に入り、速度に応じた設定の車間距離で車線変更を開始。スムーズに追い越し、同じ車間距離を保って元いた車線に戻ってくれる。変更を開始する車間距離の保ち方が程良い点が好感触だった。

画像: ハンズオフ状態で前走車を検知して右車線に自動でスムーズに車線変更してくれる。

ハンズオフ状態で前走車を検知して右車線に自動でスムーズに車線変更してくれる。

ドライバー異常時対応システムは、ドライバーの視線を検知するセンサーを塞ぐカタチで異常事態を再現。まずモニターの表示で警告を始め、次いで室内アラートとクラクション、そしてブレーキが短く作動するなど、複数の方法でドライバーの意識覚醒を促すとともに、ハザードランプを加えて外部への注意喚起を行いつつ、周囲の状況を検知しながら徐行に移り、車線を変更、最終的には安全がある程度確保できる路肩へと移動し、停車するというもの。

画像: センサーを覆い模擬の異常状態を作り、ドライバー異常時対応システムを作動。ディスプレイ表示やクラクション、ブレーキによりドライバーの覚醒を促し、同時に周囲へ警戒を示してくれる。

センサーを覆い模擬の異常状態を作り、ドライバー異常時対応システムを作動。ディスプレイ表示やクラクション、ブレーキによりドライバーの覚醒を促し、同時に周囲へ警戒を示してくれる。

また、アイサイトにAIが導入される機能拡張の一例として、雪が積もった道でのテスト走行の映像も示された。車線が見えず、両脇は雪の壁という、ほぼ真っ白な視界の状況で、ハンズオフしたまま車両が通路をしっかりトレースしていた。このシステムは、雪だけでなく、濃霧などの視界不良の状況でもアシストを行ってくれるという。

制御統合ECU、ADAS、E/Eアーキテクチャを独自開発

今後のSUBARU車の商品性確立の方策として、アフォーダブル(手頃な、安価な)であるという特性を保つことをテーマのひとつに掲げている。

その具体例として、車両のさまざまな制御を行うコントロールユニットの改革を進めている。これまでは、パワートレーン、車両の安定、操舵系、安全管理、セキュリティなど、各デバイスごとに制御ユニットを持っていたが、それを一体化し集中させることで、制御の幅や解像度を高める用に出来るほか、専用のAMD製チップを用いた制御統合ECUとすることでコストを抑え、さらに各車種で共通化を図ることで、メンテナンスなど運用も含めたコスト低減が見込めるというもの。

これはECUの一部をカスタマイズ可能な構成とすることで、BEVだけでなく、HEVやICEというさまざまなパワーユニットに対応できる設計が盛り込まれていて、今後は全車への導入を進めるという。

画像: すべてのデバイスの制御を一括集中で行える制御統合ECU。

すべてのデバイスの制御を一括集中で行える制御統合ECU。

衝突安全に向けた新技術

「世界一安心して移動できるクルマづくり」の実現には、自車だけでなく、衝突の対象へのダメージ軽減も重要なファクターとなる。そのため、プラットフォームの設計段階で対象へのダメージ軽減を盛り込んでいるという。

高精度の独自開発CAE技術の活用で、実際の現象とほぼ変わらないシミュレートを実現できるようになった。これにより、実車での試験を行う前のデジタルの段階でいろいろなアイデアが試せるようになり、より早く、高いレベルのダメージ軽減機構を盛り込むことが可能になったという。

この技術を新たな自社開発BEVの開発で活用し、正面とオフセット衝突で衝撃の減衰を分散する構造を実現。点ではなく面で衝撃吸収をすることで、対象へのダメージを少なくしている。また、BEVでは側方の衝突でバッテリーへのダメージによる火災を防ぐことが重要であるので、サイドシルの中に緩衝部材を組み入れるなどの方策を講じることで、それを防いでいる。

画像: 独自開発BEV用シャシのフロントセクション。赤い部分が衝撃吸収メンバー。

独自開発BEV用シャシのフロントセクション。赤い部分が衝撃吸収メンバー。

最高レベルを目指したeAxleとバッテリーパック

快適な室内空間を作り上げるため、独自開発のBEVではe-Axleとバッテリーパックのミニマム化を追求している。

床下に装着されるバッテリーパックは居住空間を直接圧迫するため、コンパクト化の効果が覿面に現れる部分。この独自開発BEVでは、パナソニックと協業し、各セル間の配線や配置を徹底的に見直し、コントロールユニットの配置を変えることで、従来品比で25%もの厚み低減を実現した。

画像: 厚みを25%抑えることに成功した新開発のバッテリーパック。

厚みを25%抑えることに成功した新開発のバッテリーパック。

eAxleはアイシンとの協業により、徹底したスペースの効率化を行い、前後ユニットともにシルエットのコンパクト化と重量の削減を実現している。また、フロントユニットは衝突時に構造物として影響するため、前後長を極力短くし、衝突時に床下に潜り込むような形状となっているという。

画像: 綿密なスペース効率の追求でコンパクト化を達成した前後のeAxle。

綿密なスペース効率の追求でコンパクト化を達成した前後のeAxle。

熱効率50%を目指す次世代 「BOXER」エンジンの開発

新体制でBEVへの大幅な投資を行ったが、依然としてSUBARUの魅力の源として「BOXER」というICEは必要不可欠だ。今回の発表では、その「BOXER」の商品力を向上させる方策も盛り込まれていた。

昨今のICEの開発では、資源(燃料)とCO2削減のため熱効率の向上が命題となっていて、熱損失を減らすロングストローク設計が主流となっている。しかし水平対向エンジンはその横長の構成上、ロングストローク化に制約があるため、熱効率向上には不利とされていた。

しかしSUBARUのエンジニアはその逆境を撥ね除けようと、「BOXER」への情熱の火を絶やさず努力を続けていた。この「SUBARU 開発戦略 説明・取材会」では、その熱効率向上の目標を、ガソリン燃料エンジンの実現可能最高レベルと目されている50%を掲げた。
※詳細は別記事にて紹介

画像: 熱効率50%を目指すための新たな技術が盛り込まれたBOXERのシリンダーヘッド。

熱効率50%を目指すための新たな技術が盛り込まれたBOXERのシリンダーヘッド。

今回の「SUBARU 開発戦略説明・取材会」では、SUBARUのクルマづくりの大きなテーマのひとつである安心安全への取り組みと、これからの目まぐるしく状況が変化する自動車市場に適応していくための開発プロセスの改革の成果が具体的な形として示された。独自開発のBEVの登場を含めた今後のSUBARUの展開に目が離せない。

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