日産のシリーズハイブリッド技術「eパワー(e-POWER)」を搭載した電動化コンパクトSUVのキックス(NISSAN KICKS)が、2020年6月30日に発売されてから早3カ月。9月までの販売実績も発表されたが、その初速はどうだったのか、今後の伸びを期待できるのか、分析してみた。

e-POWERを搭載して人気だが懸念材料も

日産久々の新型登録車がキックス。ブランニューとしては10年ぶりというから、販売に気合が入っているはずだ。登場から3カ月経ち、販売成績はどうなのかを分析したい。

キックスは2020年6月24日発表、発売は同月30日。ほぼ6月中の登録は見込めない販売スケジュールだが、日本自動車販売協会連合会(自販連)のデータを見ると、6月に1836台を販売(登録)されて販売ランキング27位に入っている。トヨタ C-HRが1833台で28位とたった3台差でキックスが上まわった。この台数のほとんどが、全国の日産系ディーラーの試乗車である可能性が高い。

というのは7月の販売を見るとわかる。なんと販売ランキングの50位以内に入っていないのだ。この原因はいろいろ考えられるが、キックスはタイで生産されている輸入車であり、新型コロナの影響を受けた可能性もひとつとして挙げられる。ちょうどこの時期に輸入スケジュールが混乱してしまったのではないだろうか。

画像: 国産ブランドである日産のキックスだが、生産はタイで行われる。厳密に言えば輸入車となるが、ここを気にするユーザーは少ないだろう。発電専用の1.2L直3エンジンと、駆動専用のモーターを搭載するシリーズハイブリッドSUVだ。

国産ブランドである日産のキックスだが、生産はタイで行われる。厳密に言えば輸入車となるが、ここを気にするユーザーは少ないだろう。発電専用の1.2L直3エンジンと、駆動専用のモーターを搭載するシリーズハイブリッドSUVだ。

日産が10月1日付で発表したニュースリリースを一部抜粋すると、「6月の発売以来、大変好調な販売状況となっています。発売直後は、コロナによる部品供給の影響もありましたが、11月より生産の増強を計画しており、さらに納期が短くなる見込みです」としている。人気はあるが、生産と輸入、販売が本来のスケジュールどおりに行われていないことが読み取れる。

8月の販売台数は1178台で38位。エクストレイルが39位で、なんとか新車の面目を保ったが、どうやら輸入供給体制はまだ本調子ではないようだ。9月は3493台で19位と、発売以来の最高台数を記録したが、まだまだ供給が追い付いていないのだろう。

日産のリリースのとおり11月から生産の増強を計画しているといいうから、その効果が出るのは年明けということになりそうだ。2020年内はすでに受注している台数分の消化に当てられるから、これから注文してもすぐに納車にはならないようだ。

日産自動車の広報に確認すると「現在(10月9日取材)、ご注文いただくと約2カ月で納車できますので年内に登録できます。ただし、ボディカラーや仕様、オプションの装着によって納期が前後します。フルオプションの仕様などは、年明けの納車になる可能性があります」という回答だった。実際の受注台数こそ公表を避けていたが、販売状況は好調のようで生産を増強されれば納車時期ももう少し短くなりそうだ。

画像: 日産キックスのコクピット。ライバルモデルたちよりもひとまわりほど大きいボディサイズにより、ゆったりとした室内空間を実現している。

日産キックスのコクピット。ライバルモデルたちよりもひとまわりほど大きいボディサイズにより、ゆったりとした室内空間を実現している。

日産キックスの受注が好調な要因はいくつかある。数年間ブランニューモデルがなかったため日産ファンが買え控えていたこと、流行りのSUVということもあって購入に走ったと考えられる。さらに、シリーズハイブリッドのeパワーに魅力を感じて購入しているユーザーも多い。

最近はヤリスクロスやCX-3の1.5Lモデル追加やロッキー/ライズ、クロスオーバーのフィットクロスターなどコンパクトSUVが続々と登場しているが、このなかからハイブリッドモデルでBセグメント以上のボディサイズのSUVとなると、キックスがちょっと抜け出しているのだ。

実際キックスのサイズを見るとBセグメントとCセグメントの中間という感じで、ライバルと比較してリアシートの居住性がゆったりとし、開放感も高い。また、運転支援のプロパイロットを採用しているというのも人気を支えている。スカイラインに採用される最先端のプロパイロット2.0ではないが、レーンキープの性能やACC(アダプティブクルーズコントロール)の追従の制御はかなりスムースで洗練された。ハンズオフはできないもののADASとして、ドライバーの疲労感を軽減してくれるのは確実だ。

回生によって減速するeパワードライブのワンペダル制御も洗練された。ノートなどはかなりアクセルペダルのコントロールが上手いドライバーでないと減速回生が強く、思った位置に止めにくいという感じがあった。だがキックスは通常ブレーキペダルを踏む減速ポイントでアクセルを離せば、回生ブレーキによって思った位置に止まりやすくなった。アクセルペダルの戻し加減をコントロールする必要が少なくなり、初心者でも違和感なくドライビングできるようになった。

画像: 日産の先進安全運転支援システム「プロパイロット」を全グレードで標準装備する。ハンズオフ機能はないものの、アダプティブクルーズコントロール機能による高速走行時の疲労軽減効果は大きい。

日産の先進安全運転支援システム「プロパイロット」を全グレードで標準装備する。ハンズオフ機能はないものの、アダプティブクルーズコントロール機能による高速走行時の疲労軽減効果は大きい。

このように商品力は高いが、ネックなのが車両価格だ。最近登場したライバルはBセグメントのど真ん中で、CX-3は190万円を切る価格から設定されているし、ヤリスクロスはハイブリッドを選んでも約230万円からの設定。

キックスは価格が安いXを選んでも約276万円とかなり高い。プロパイロットを標準装備にしたのはいいが、ライバルより価格が高くなってしまったのが、今後の販売にどう影響するかがポイント。ライバルより室内が広いこともキックスの美点だが、価格差をそれだけで埋めることができるかがネックとなるだろう。

それに日産にとってタイ生産には苦い思い出がある。それは現行マーチをタイ生産に切り替えたときのこと。堅調に売れていたコンパクトカーのマーチが、それほど売れなくなってしまったのだ。タイ生産にしたことが直接の原因かは断言できないが、日産はなんとしてでもタイ生産のキックスの販売を波に乗せたいという思いが強いはずだ。(文:丸山 誠)

日産 キックス 主要諸元

●全長×全幅×全高:4290×1760×1610mm
●ホイールベース:2620mm
●車両重量:1350kg
●発電用エンジン:1198cc 直3 DOHC
●駆動用モーター:EM57型 交流同期発電機
●モーター最高出力:129ps/4000−8992rpm
●モーター最大トルク:260Nm/500-3008rpm
●トランスミッション:−(最終減速比:7.388)
●駆動方式:FF
●タイヤサイズ:205/55R17

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