2008年2月、アウディから待望の2ドアクーペ「A5」が登場した。パワートレーンのレイアウト変更という英断の末に誕生した美しいクーペはどんなモデルだったのか。美しいデザインを作り出すための前後重量配分の適正化は走りにどんな効果をもたらしたのか。ここでは日本上陸早々に行った試乗の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年4月号より)

新しい車両思想を実感させる運転席左側の大きな膨らみ

一方で、そのような優美さの実現には「代償」も認められる。それは、ドライビングポジションにどうしても不自然な印象が拭えないことだ。

これはトランスミッションの右側に、前輪を駆動するための短いプロペラシャフトが新たに置かれたことに起因する。それが、フロント右フロアの左側に大きな膨らみを生み出すため、フットレストの位置が理想と思われる場所よりも靴一足分ほども右に押され、しかも妙に奥まっているのだ。

実は、国際試乗会で左ハンドル車をテストドライブした際にすでにそれは懸念された事柄だったが、こうして実際に右ハンドル仕様で乗ってみると、新しい車両思想を実感すると同時に、やはり左側通行の市場ではいささか問題がないわけではないと思える。

日本仕様の場合、2ペダルのATモデルしか導入されていないのでまだ幸いだが、このクラスでも3ペダルのMT仕様がポピュラーな英国などではフットレストはクラッチペダルの下側とならざるを得ないはずで、それが右にオフセットされるとともに奥まった位置に置かれた原因と推測できる。

一方、後席やトランクスペースにはかなりのゆとりが感じられる。手放しに広いと感激するほどではないが、とくに大柄な人でなければ大人でもリアシートで相当な長時間を過ごせそうだ。リアのシートバックに分割可倒機構が採用されたトランクルームは、実際に大人4人が小旅行に出掛けられる程度の荷物を軽々飲み込んでくれる。A5は流麗なクーペボディの持ち主でありながら、長距離ツアラーとしての適性もしっかり備えているのである。

インテリア各部のクオリティの高さは、さすがはアウディだ。どこをとっても質感が高く、この点はライバル各車に対して大きなアドバンテージになるに違いない。惜しむらくは、マルチメディア・コントローラー「MMI」の表示レスポンスが改善されなかったこと。操作に対して表示がわずかに遅れるため、時にダイヤル操作量などをオーバーシュートしてしまいがちなのだ。直感的に理解しやすい優れたロジックの持ち主であるだけに、この「MMI」のウイークポイントは残念だ。

画像: インテリアの品質の高さは定評あるところ。どこをとっても精緻で質感が高い。また新MMIが標準装備されるのも注目点。ステアリングにはMMIの操作ボタン、さらにパドルシフトもつく。

インテリアの品質の高さは定評あるところ。どこをとっても精緻で質感が高い。また新MMIが標準装備されるのも注目点。ステアリングにはMMIの操作ボタン、さらにパドルシフトもつく。

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