滑らかな高速路面で見せる抜群のフットワーク
3.2Lエンジン+6速ATの組み合わせは、1.7トン弱のボディに十分な加速力を与えてくれる。走り始めの瞬間からその力感にはゆとりが大きく、特に2000〜3000rpm付近での太いトルク感が心地良い。直噴システムや可変バルブリフトシステムなどの最新メカの投入により、アクセルワークに対する応答性の良さも魅力的だし、高回転域にかけての伸び感も良い。日本の環境下で乗るにあたっても何の違和感もないプログラミングが施されたATとも相まり、A5の動力性能には高得点が与えられる。これは文句なく気持ちがいい。
平滑度の高い路面でのフットワークも、好感の持てるものだった。ヒタヒタと路面をしっかり捉えながら進む感じが実に心地良い。舗装のコンディションが優れた、まだ新しい高速道路などでのA5の走りは快適そのものだ。
しかし、そんな好印象は路面に凹凸が目立ってくると、残念ながら低下してくる。今回のテスト車は標準仕様の18インチタイヤを履いていたが、それでも突き上げ感がやや強く、先ほどまでの「良路」でのバネ下の動きが軽やかな感覚も急速に失われてしまうのだ。目に見える程のわだち路面に遭遇すると、ワンダリング現象が発生して直進性が明らかに低下。これは、今回のモデルがいわゆるアクティブステアリングをオプション装着し、日本の市街地での常用速度域で特にステアリングのギア比を早めているであろう点とも関係がありそうだ。
ちなみに、アウディでは「ダイナミックステアリング」と称するこの速度感応式の可変ギア比ステアリングシステムは、微低速時はもちろん100km/h程度の速度に達してもまだ通常システムよりも早いギア比を採り続ける実感がある。日本車の同種のシステムが30〜40km/hをピークにギアの増速をストップし、すでに80km/h付近では減速側に転じるというセッティングを採る場合が多いのに比べると、やはり「欧州基準の高速型セッティング」とも受け取れる。
BMWに採用された初期の仕様ほど極端ではないが、そんなギア比の早さを違和感と判断する人も少なからずいそうだ。ワンダリング現象の話題も含め、このオプションをチョイスする際には考慮したほうがいいだろう。
今回のテストドライブでは特に大きな横Gを発生するシーンでの印象は確認できなかったが、素直なターンインやその後のコーナリングの感覚から察すれば、前輪位置が前進したことによる重量配分の変化やヨー慣性モーメントの減少、リアに60%の駆動バイアス比が掛けられた4WDシステム採用による運動性能の高まりは、ある程度の実感が得られたと報告できる。
こうなると、当然今後に続く次期A4の仕上がり具合にも期待が持てるというもの。A5は単に美しいクーペというだけではなく、そんな「A4プレビュー」の意味も含んでの新世代アウディの幕開けとしての存在意義も大きいモデルなのだ。(文:河村康彦/Motor Magazine 2008年4月号より)
アウディ A5 3.2FSI クワトロ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4625×1855×1375mm
●ホイールベース:2750mm
●車両重量:1670kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3196cc
●最高出力:265ps/6500rpm
●最大トルク:330Nm/3000-5000rpm
●駆動方式:4WD
●トランスミッション:6速AT
●車両価格:695万円(2008年)